精神保健福祉法の歴史は以下の記事でやりました。

精神衛生法→精神保健法→精神保健福祉法と変遷してきたのでしたね。
ここでは精神保健福祉法の中身について詳しく見ていきます。
精神保健福祉法
精神保健福祉法の正式名称は「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」です。
次のことが定められています。
・精神保健福祉法の対象とする精神障害者の定義
・精神保健福祉センターの設置
・地方精神保健福祉審議会及び精神医療審査会
・精神保健指定医の指定
・精神科病院の設置
・医療及び保護(精神障害者の入院形態)
・入院者訪問支援事業
・精神科病院における処遇(行動制限)
・虐待の防止(通報義務)
・精神障害者保健福祉手帳
・精神保健福祉相談員の任命
・精神障害者社会復帰促進センターの指定
・正しい知識の普及
目的
精神保健福祉法は、精神障害者の福祉の増進及び国民の精神保健の向上を図ることを目的としています。
第一条 この法律は、障害者基本法の基本的な理念にのつとり、精神障害者の権利の擁護を図りつつ、その医療及び保護を行い、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律と相まつてその社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行い、並びにその発生の予防その他国民の精神的健康の保持及び増進に努めることによつて、精神障害者の福祉の増進及び国民の精神保健の向上を図ることを目的とする。
定義
第五条 この法律で「精神障害者」とは、統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害その他の精神疾患を有する者をいう。
障害者の定義は以下の通り、各法律によって様々です。精神保健福祉法では精神障害者に知的障害者が含まれますが、障害者総合支援法では精神障害者に知的障害者は含まれません。
障害 | 定義 | 根拠法 |
---|---|---|
障害者 | ・身体障害者福祉法第四条に規定する身体障害者、 ・知的障害者福祉法にいう知的障害者のうち十八歳以上である者 ・精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第五条第一項に規定する精神障害者(発達障害者支援法第二条第二項に規定する発達障害者を含み、知的障害者福祉法にいう知的障害者を除く。)のうち十八歳以上である者 ・並びに治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病であって政令で定めるものによる障害の程度が主務大臣が定める程度である者であって十八歳以上であるもの |
障害者総合支援法 |
身体障害者 | 身体障害者手帳の交付を受けた者 | 身体障害者福祉法 |
知的障害者 | 定義なし | – |
精神障害者 |
統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害その他の精神疾患を有する者 |
精神保健福祉法 |
発達障害者 | 発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受ける者 | 発達障害者支援法 |
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精神保健福祉法では精神障害者に知的障害者を含めているから、障害者総合支援法では、「知的障害者を除く」ってなってるね。一般的には精神障害と知的障害は別物だからね。ICDやDSMでは精神障害に知的障害を含めているから精神保健福祉法でもそのような定義になってるんだろうね。
精神保健福祉センター
都道府県と指定都市に、精神保健福祉センターが設置されます。
第六条 都道府県は、精神保健の向上及び精神障害者の福祉の増進を図るための機関(精神保健福祉センター)を置くものとする。
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精神保健福祉センターは都道府県だけじゃなくて、指定都市にも設置義務があるよ。
地方精神保健福祉審議会
第九条 精神保健及び精神障害者の福祉に関する事項を調査審議させるため、都道府県は、条例で、精神保健福祉に関する審議会その他の合議制の機関(地方精神保健福祉審議会)を置くことができる。
精神医療審査会
都道府県と指定都市に、精神医療審査会が設置されます。
第十二条 第三十八条の三第二項(同条第六項において準用する場合を含む。)及び第三十八条の五第二項の規定による審査を行わせるため、都道府県に、精神医療審査会を置く。
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精神保健福祉センターと同じように精神医療審査会は都道府県だけじゃなくて、指定都市にも設置義務があるよ。精神保健福祉センターは精神医療審査会の事務をやるからね。
精神保健指定医
厚生労働大臣は、精神保健指定医を指定します。
第十八条 厚生労働大臣は、その申請に基づき、次に該当する医師のうち第十九条の四に規定する職務を行うのに必要な知識及び技能を有すると認められる者を、精神保健指定医に指定する。
一 五年以上診断又は治療に従事した経験を有すること。
二 三年以上精神障害の診断又は治療に従事した経験を有すること。
三 厚生労働大臣が定める精神障害につき厚生労働大臣が定める程度の診断又は治療に従事した経験を有すること。
四 厚生労働大臣の登録を受けた者が厚生労働省令で定めるところにより行う研修(申請前三年以内に行われたものに限る。)の課程を修了していること。
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精神保健指定医は、1987年の精神保健法が成立した時に創設されたんだったね。
都道府県立精神科病院
都道府県は、精神科病院を設置しなければなりません。
第十九条の七 都道府県は、精神科病院を設置しなければならない。
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精神科病院は都道府県だけ、指定都市には設置義務はないよ。
入院形態
精神科病院への入院形態は、本人の同意に基づく任意入院になるよう努めなければなりません。
本人の同意が得られない場合は、家族等の同意で医療保護入院させることができます(原則6か月以内)。
自傷他害のおそれがある場合は、国等の設置した精神科病院又は指定病院に措置入院させることができます。さらに自傷他害のおそれがある場合で、急速を要し、措置入院の手続きを採れない場合は、72時間を超えない範囲で緊急措置入院させることができます。
また、自傷他害のおそれが無い場合でも、急速を要し、その家族等の同意を得ることができない場合は、72時間を超えない範囲で応急入院させることができます。
任意入院
第二十条 精神科病院の管理者は、精神障害者を入院させる場合においては、本人の同意に基づいて入院が行われるように努めなければならない。
措置入院
第二十九条 都道府県知事は、第二十七条の規定による診察の結果、その診察を受けた者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたときは、その者を国等の設置した精神科病院又は指定病院に入院させることができる。
2 前項の場合において都道府県知事がその者を入院させるには、その指定する二人以上の指定医の診察を経て、その者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めることについて、各指定医の診察の結果が一致した場合でなければならない。
緊急措置入院
第二十九条の二 都道府県知事は、前条第一項の要件に該当すると認められる精神障害者又はその疑いのある者について、急速を要し、第二十七条、第二十八条及び前条の規定による手続を採ることができない場合において、その指定する指定医をして診察をさせた結果、その者が精神障害者であり、かつ、直ちに入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人を害するおそれが著しいと認めたときは、その者を前条第一項に規定する精神科病院又は指定病院に入院させることができる。
2 都道府県知事は、前項の規定による入院措置を採つたときは、速やかに、その者につき、前条第一項の規定による入院措置を採るかどうかを決定しなければならない。
3 第一項の規定による入院の期間は、七十二時間を超えることができない。
医療保護入院
第三十三条 精神科病院の管理者は、次に掲げる者について、その家族等のうちいずれかの者の同意があるときは、本人の同意がなくても、六月以内で厚生労働省令で定める期間の範囲内の期間を定め、その者を入院させることができる。
一 指定医による診察の結果、精神障害者であり、かつ、医療及び保護のため入院の必要がある者であつて当該精神障害のために第二十条の規定による入院が行われる状態にないと判定されたもの
二 第三十四条第一項の規定により移送された者
応急入院
第三十三条の六 厚生労働大臣の定める基準に適合するものとして都道府県知事が指定する精神科病院の管理者は、医療及び保護の依頼があつた者について、急速を要し、その家族等の同意を得ることができない場合において、その者が、次に該当する者であるときは、本人の同意がなくても、七十二時間を限り、その者を入院させることができる。
退院後生活環境相談員
精神科病院の管理者は、医療保護入院者と措置入院者に対して退院後生活環境相談員を選任しなければなりません。
第二十九条の六 措置入院者を入院させている第二十九条第一項に規定する精神科病院又は指定病院の管理者は、精神保健福祉士その他厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、退院後生活環境相談員を選任し、その者に措置入院者の退院後の生活環境に関し、措置入院者及びその家族等からの相談に応じさせ、及びこれらの者に対する必要な情報の提供、助言その他の援助を行わせなければならない。
退院等の請求
本人や家族等は、都道府県知事に退院請求の申立てができます。その請求の審査をするのが精神医療審査会です。
第三十八条の四 精神科病院に入院中の者又はその家族等は、厚生労働省令で定めるところにより、都道府県知事に対し、その者を退院させ、又は精神科病院の管理者に対し、その者を退院させることを命じ、若しくはその者の処遇の改善のために必要な措置を採ることを命じることを求めることができる。
入院者訪問支援事業
都道府県は、入院者訪問支援事業を実施することができます。
第三十五条の二 都道府県は、精神科病院に入院している者のうち第三十三条第二項の規定により入院した者その他の外部との交流を促進するための支援を要するものとして厚生労働省令で定める者に対し、入院者訪問支援員が、その者の求めに応じ、訪問により、その者の話を誠実かつ熱心に聞くほか、入院中の生活に関する相談、必要な情報の提供その他の厚生労働省令で定める支援を行う事業(入院者訪問支援事業)を行うことができる。
行動制限
精神科病院の管理者は、行動制限を行うことができます。
第三十六条 精神科病院の管理者は、入院中の者につき、その医療又は保護に欠くことのできない限度において、その行動について必要な制限を行うことができる。
虐待防止
第四十条の二 精神科病院の管理者は、当該精神科病院において医療を受ける精神障害者に対する虐待の防止に関する意識の向上のための措置、当該精神科病院において精神障害者の医療及び保護に係る業務に従事する者その他の関係者に対する精神障害者の虐待の防止のための研修の実施及び普及啓発、当該精神科病院において医療を受ける精神障害者に対する虐待に関する相談に係る体制の整備及びこれに対処するための措置その他の当該精神科病院において医療を受ける精神障害者に対する虐待を防止するため必要な措置を講ずるものとする。
第四十条の三 精神科病院において業務従事者による障害者虐待を受けたと思われる精神障害者を発見した者は、速やかに、これを都道府県に通報しなければならない。
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2024年度から、精神科病院での業務従事者による障害者虐待に通報義務ができたんだ。それまで義務じゃなかったことが驚きだよ。
精神障害者保健福祉手帳
精神障害者保健福祉手帳は、都道府県知事、指定都市の市長が交付します。
第四十五条 精神障害者(知的障害者を除く)は、厚生労働省令で定める書類を添えて、その居住地(居住地を有しないときは、その現在地)の都道府県知事に精神障害者保健福祉手帳の交付を申請することができる。
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精神保健福祉法では精神障害者に知的障害者を含めた定義をしてしまったから、ここでわざわざ「知的障害者を除く」って・・・。
精神保健福祉相談員
都道府県及び市町村は、精神保健福祉相談員を置くことができます。
第四十八条 都道府県及び市町村は、精神保健福祉センター及び保健所その他これらに準ずる施設に、精神保健及び精神障害者の福祉に関する相談に応じ、並びに精神障害者等及びその家族等その他の関係者を訪問して必要な情報の提供、助言その他の援助を行うための職員(精神保健福祉相談員)を置くことができる。
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精神保健福祉相談員は、精神保健福祉センターや保健所に配置されるけど、配置義務はないよ。
精神障害者社会復帰促進センター
精神障害者社会復帰促進センターは、厚生労働大臣が指定します。
第五十一条の二 厚生労働大臣は、精神障害者の社会復帰の促進を図るための訓練等に関する研究開発を行うこと等により精神障害者の社会復帰を促進することを目的とする一般社団法人又は一般財団法人であつて、次条に規定する業務を適正かつ確実に行うことができると認められるものを、その申請により、全国を通じて一個に限り、精神障害者社会復帰促進センターとして指定することができる。
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精神障害者社会復帰促進センターは、1993年の精神保健法改正で創設されたんだったね。
正しい知識の普及
第四十六条の二 都道府県及び市町村は、精神障害についての正しい知識の普及のための広報活動等を通じて、精神障害者の社会復帰及びその自立と社会経済活動への参加に対する地域住民の関心と理解を深めるように努めなければならない。
過去問
第27回 問題43
次のうち、「精神保健福祉法」に規定されている機関として、正しいものを1つ選びなさい。
1 発達障害者支援センター
2 市町村保健センター
3 認知症疾患医療センター
4 基幹相談支援センター
5 精神保健福祉センター
(注)「精神保健福祉法」とは、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」のことで
ある。
選択肢5が正解です。
第21回 問題18
次のうち、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に定められているものとして、正しいものを2つ選びなさい。
1 対象となる精神障害者の定義
2 障害支援区分
3 国民の精神保健の向上を図ること
4 地域移行支援の給付
5 社会復帰調整官の役割
1 対象となる精神障害者の定義
正しいです。第五条「この法律で「精神障害者」とは、統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者をいう。」
2 障害支援区分
間違いです。これは障害者総合支援法に定められています。
3 国民の精神保健の向上を図ること
正しいです。第一条「この法律は、精神障害者の医療及び保護を行い、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律と相まつてその社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行い、並びにその発生の予防その他国民の精神的健康の保持及び増進に努めることによつて、精神障害者の福祉の増進及び国民の精神保健の向上を図ることを目的とする。」
4 地域移行支援の給付
間違いです。これは障害者総合支援法に定められています。
5 社会復帰調整官の役割
間違いです。これは医療観察法に定められています。
第25回 問題61
次のうち、「精神保健福祉法」に規定される者として、正しいものを2つ選なさい。
1 退院支援相談員
2 精神保健福祉相談員
3 相談支援専門員
4 退院後生活環境相談員
5 成年後見人
選択肢2と4が正解です。精神保健福祉相談員は、精神保健福祉法第48条に規定されています。
第24回 問題18
- 次のうち、都道府県及び市町村が「精神障害者の社会復帰及びその自立と社会経済活動への参加に対する地域住民の関心と理解を深めるように努めなければならない」と条文に明記されている法律として、正しいものを1つ選びなさい。
1 精神保健福祉士法
2 「精神保健福祉法」
3 「医療観察法」
4 「障害者総合支援法」- 5 「障害者虐待防止法」
- (注)1「精神保健福祉法」とは、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」のことである。
2「医療観察法」とは、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」のことである。
3「障害者総合支援法」とは、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」のことである。
4「障害者虐待防止法」とは、「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」のことである。
選択肢2が正解です。第四十六条の二に規定されています。
第27回 問題22
次の記述のうち、「精神保健福祉法」に定められている精神障害者の家族の権利·義務として、正しいものを1つ選びなさい。
1 精神障害者に医療を受けさせるに当たって、医師の指示に従う。
2 精神障害者が自身を傷つけ又は他人に害を及ぼさないように監督する。
3 精神障害者の財産上の利益を保護する。
4 都道府県知事に退院請求の申立てができる。
5 回復した措置入院者等を引き取る。
選択肢4が正解です。
次の記事
次は、精神保健福祉センター等の福祉行政機関について。

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