障害福祉サービスには、精神障害者の通院医療費を支給する自立支援医療(精神通院医療)というサービスがあります。
見ていきましょう。
自立支援医療
自立支援医療は、心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度です。所得によって自己負担額が異なりますが、およそ1割を上限として負担します。
医療機関は自由に選ぶことができず、指定を受けた医療機関での医療に限定されます。
自立支援医療には、対象によって以下の3種類(更生医療、育成医療、精神通院医療)あります。
更生医療
対象:身体障害者福祉法に基づき身体障害者手帳の交付を受けた者で、その障害を除去・軽減する手術等の治療により確実に効果が期待できる者(18歳以上)
支給決定:市町村
育成医療
対象:身体に障害を有する児童で、その障害を除去・軽減する手術等の治療により確実に効果が期待できる者(18歳未満)
支給決定:市町村
精神通院医療
対象:精神保健福祉法第5条に規定する統合失調症などの精神疾患を有する者で、通院による精神医療を継続的に要する者
支給決定:都道府県
.png)
この精神通院医療だけ都道府県が支給決定するんだよ。下の歴史的経緯も関係して。
精神通院医療
1965年「精神衛生法改正」で精神障害者の医療費の公費負担制度が設けられました。これが現在の自立支援医療(精神通院医療)です。
この制度は、1964年に起こったライシャワー事件などを受けて精神障害者の支援を手厚くする一環でした。その後、1995年に精神保健福祉法で規定され、現在は「障害者総合支援法」で規定されています。
実施主体
精神通院医療の実施主体は、都道府県または指定都市です。ただし、申請窓口は市町村です。
支給の要否判定を行うのは、都道府県(指定都市)に設置されている精神保健福祉センターです。
.png)
精神通院医療の関連事務は、かつては保健所が担ってたけど、2002年から市町村に変わったよ。
障害福祉サービスは基本的に「市町村」が支給決定しますが、精神通院医療だけは「都道府県または指定都市」が支給決定を行います。
利用条件等
・通院、デイケア、訪問看護が対象(入院は対象外)
・通常3割負担の医療費が1割負担まで軽減(世帯所得や治療内容に応じて自己負担に月額上限あり)
・受給者証の有効期間は、原則1年
.png)
受給者証というのは、福祉サービスの支給決定が下りた時に発行される証明書みたいなものだね。
対象となる精神疾患
F1.精神作用物質使用による精神及び行動の障害(F1)
F2.統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害(F2)
F3.気分障害(F3)
G40.てんかん(G40)
F4.神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害(F4)
F5.生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群(F5)
F6.成人の人格及び行動の障害(F6)
F7.精神遅滞(F7)
F8.心理的発達の障害(F8)
F9.小児期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害(F9)
※F0~F3、G40は高額治療継続者(いわゆる「重度かつ継続」)の対象疾患
これらはICD-10の分類でしたね。
統合失調症など、高額な治療を長期間続けなければならない人は「重度かつ継続」という区分が適用され、別枠で自己負担額の上限が設定されます。
最後に
自立支援医療 | 対象 |
---|---|
更生医療 | 身体障害者 |
育成医療 | 障害児 |
精神通院医療 | 精神障害者 |
障害福祉サービスの中で、都道府県が支給決定をしているサービスは「精神通院医療」だけ、これ以外は全て市町村が支給決定を行います。
これは、精神障害者が虐げられてきた歴史の名残です。
詳しくは、精神障害福祉の歴史を参照してください。

忘れないように。
過去問
第19回 問題64
自立支援医療(精神通院医療)に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 「精神保健福祉法」に規定された制度である。
2 支給認定の申請窓口は、精神保健福祉センターである。
3 支給認定の要否を判定するのは、障害支援区分認定審査会である。
4 精神科訪問看護は、支給範囲の対象外である。
5 所得などに応じて、1か月当たりの利用者負担上限額が設定されている。
1 「精神保健福祉法」に規定された制度である。
間違いです。2004年までは精神保健福祉法に規定されていましたが、現在は障害者総合支援法で規定されています。
2 支給認定の申請窓口は、精神保健福祉センターである。
間違いです。申請窓口は市町村です。
3 支給認定の要否を判定するのは、障害支援区分認定審査会である。
間違いです。支給決定は精神保健福祉センター(都道府県、指定都市)です。
4 精神科訪問看護は、支給範囲の対象外である。
間違いです。精神科訪問看護、外来、外来での投薬、精神科デイケア等が支給対象です。
5 所得などに応じて、1か月当たりの利用者負担上限額が設定されている。
これが正解です。
第22回 問題77
次のうち、市町村の精神保健福祉業務として、正しいものを1つ選びなさい。
1 自立支援医療(精神通院医療)の申請受理
2 精神障害者保健福祉手帳の等級判定
3 発達障害者支援センターの運営
4 地方精神保健福祉審議会の設置
5 精神科救急医療体制の整備。
1 自立支援医療(精神通院医療)の申請受理
これが正解です。窓口は市町村で、支給決定は都道府県(精神保健福祉センター)です。
2 精神障害者保健福祉手帳の等級判定
間違いです。これは都道府県(精神保健福祉センター)の役割です。
3 発達障害者支援センターの運営
間違いです。発達障害者支援センターは、都道府県や指定都市、都道府県知事等が指定した社会福祉法人、NPO法人等が運営しています。
4 地方精神保健福祉審議会の設置
間違いです。地方精神保健福祉審議会は、都道府県(指定都市)が条例に基づき設置します。
5 精神科救急医療体制の整備。
間違いです。これは都道府県(指定都市)の役割です。
第21回 問題73
次のうち、自立支援医療の根拠となる法律として、正しいものを1つ選びなさい。
(注)「障害者総合支援法」とは、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」のことである。
1 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
2 「障害者総合支援法」
3 健康保険法
4 地域保健法
5 医療法
選択肢2が正解です。
第24回 問題63
- 次の記述のうち、「障害者総合支援法」における自立支援医療(精神通院医療)の説明として、正しいものを1つ選びなさい。
1 月の負担上限額を超えない場合の自己負担は、原則2割である。
2 受給者証の有効期間は、原則2年間である。
3 精神通院医療の要否に関する判定を行うのは、居住地の市町村である。
4 所得にかかわらず自己負担の上限は、一律である。
5 支給認定の申請書は、市町村に提出する。
(注) 「障害者総合支援法」とは、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」のことである。
1 月の負担上限額を超えない場合の自己負担は、原則2割である。
誤りです。自己負担は原則1割です。
2 受給者証の有効期間は、原則2年間である。
誤りです。受給者証の有効期間は原則1年です。
3 精神通院医療の要否に関する判定を行うのは、居住地の市町村である。
誤りです。
4 所得にかかわらず自己負担の上限は、一律である。
誤りです。所得によって自己負担の上限は変わります。
5 支給認定の申請書は、市町村に提出する。
これが正解です。申請窓口は市町村です。
次の記事
次は、医療福祉系専門職について。
コメント