精神障害者の入院5形態について、以下の記事を参照してください。
任意入院
任意入院は、本人の同意に基づく入院です。
精神保健福祉法第二十条には、「精神科病院の管理者は、精神障害者を入院させる場合においては、本人の同意に基づいて入院が行われるように努めなければならない。」とされており、以下で紹介する任意入院以外の入院形態の前に、まずこの任意入院が行われるよう努力しなければなりません。
これ以外の入院形態は本人の同意がなくても入院させられるということで、驚きです。
医療保護入院
医療保護入院は、任意入院のように本人の同意が得られない場合に、家族等の同意によって入院する形態です。
医療保護入院の退院に向けた相談支援の担い手を「退院後生活環境相談員」といいます。
応急入院
本人の同意も家族等の同意も得られない場合に、72時間という期限付きで応急的に入院させられる形態です。
措置入院
自傷・他害のおそれのある場合に、強制的に入院させる形態です。
緊急措置入院
措置入院では精神保健指定医2名の診察が必要ですが、2名を確保できない場合に72時間という期限付きで緊急的に1名の診察で入院させる形態です。
鑑定入院
検察官から審判の申立てを受けた地方裁判所は、まず精神鑑定のために鑑定入院命令を出します。
鑑定医は鑑定後、「医療観察法」に基づく入院による医療の必要性について、鑑定結果に医学的見地からの意見を付して地方裁判所に提出する義務があります。
まとめ
まず、本人の同意に基づく「任意入院」があり、この入院形態になるよう努めなければなりません。
それで無理な場合は、家族等の同意に基づく「医療保護入院」があります。
自傷他害の恐れがある場合は、本人も家族等の同意も必要ない「措置入院」があります。
ただし、措置入院は精神保健指定医2名以上の診断が必要でハードルが高いため、精神保健指定医1名の診断で入院させられる医療保護入院が横行しています。
さらに緊急性が高い場合は、応急入院や緊急措置入院があります。
入院形態 | 本人の同意 | 家族等の同意 | 精神保健指定医の診察 | その他の条件 | 備考 | 入院権限 |
---|---|---|---|---|---|---|
任意入院 | 有 | 無 | 無 | 書面による本人意思の確認 | 本人の申し出で退院可能だが精神保健指定医の判断で72時間の退院制限可能 | 精神科病院管理者 |
医療保護入院 | 不可 | 有 | 1人 | 入退院後10日以内に知事に届け出 | ||
応急入院 | 不可 | 無 | 1人 | 保護の依頼があるが家族等の同意が得られない | 72時間以内の入院、知事に届け出、知事指定の病院のみ | |
措置入院 | 不可 | 無 | 2人以上 | 自傷・他害のおそれがある | 国立・都道府県立精神科病院または指定病院に限る | 都道府県知事 |
緊急措置入院 | 不可 | 無 | 1人 | 自傷・他害のおそれが著しく緊急を要する | 72時間以内、指定医が1人しか確保できない場合の暫定措置 |
過去問
第23回 問題9
次のうち、精神保健指定医の診察の結果、応急入院が妥当と考えられる患者として、適切なものを 1 つ選びなさい。
1 自ら治療を求めて来院した不安障害の患者
2 妻が付き添って来院した振戦せん妄の患者
3 身元の全く分からない不穏で独語のある患者
4 家族に対して易怒的で、長男に連れてこられた前頭側頭型認知症の患者
5 幻覚・妄想が強く自傷他害のおそれのある統合失調症の患者
1 自ら治療を求めて来院した不安障害の患者
これは自らですので「任意入院」です。
2 妻が付き添って来院した振戦せん妄の患者
これは家族が付き添っているので「医療保護入院」です。
3 身元の全く分からない不穏で独語のある患者
これが正解、「応急入院」です。
4 家族に対して易怒的で、長男に連れてこられた前頭側頭型認知症の患者
これは家族が付き添っているので「医療保護入院」です。
5 幻覚・妄想が強く自傷他害のおそれのある統合失調症の患者
これは自傷他害のおそれがあるので「措置入院」です。
第23回 問題10
次の記述のうち、精神障害者の入院形態として、正しいものを1つ選びなさい。
1 任意入院では、48時間に限り退院制限を行うことができる。
2 医療保護入院では、家族等の同意により本人を入院させることができる。
3 措置入院は、家庭裁判所の権限による入院形態である。
4 緊急措置入院は、夜間に限って行われる。
5 「医療観察法」による鑑定入院は、都道府県知事の権限による入院である。
1 任意入院では、48時間に限り退院制限を行うことができる。
間違いです。72時間です。
2 医療保護入院では、家族等の同意により本人を入院させることができる。
これが正解です。
3 措置入院は、家庭裁判所の権限による入院形態である。
間違いです。都道府県知事の権限です。
4 緊急措置入院は、夜間に限って行われる。
間違いです。夜間に限りません。緊急なのに夜間に限ってしまうと意味がありません。
5 「医療観察法」による鑑定入院は、都道府県知事の権限による入院である。
間違いです。鑑定入院は地方裁判所の裁判官が命じます。
第23回 問題61
措置入院に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 精神保健指定医の権限で入院を決定する。
2 「精神保健福祉法」により、国等の設置した精神科病院又は指定病院に入院させることができる。
3 病院の管理者は、本人へ入院に関する告知を行う義務がある。
4 定期病状報告は市町村長に対して行う。
5 病院の管理者が措置の解除を行う。
1 精神保健指定医の権限で入院を決定する。
間違いです。都道府県知事の権限です。
2 「精神保健福祉法」により、国等の設置した精神科病院又は指定病院に入院させることができる。
これが正解です。
3 病院の管理者は、本人へ入院に関する告知を行う義務がある。
義務はありません。
4 定期病状報告は市町村長に対して行う。
都道府県知事の権限で入院するので、定期病状報告も都道府県知事に対して行います。
5 病院の管理者が措置の解除を行う。
都道府県知事の権限で入院するので、措置の解除も都道府県知事が行います。
第21回 問題62
次のうち、医療保護入院に関する記述として、正しいものを 1 つ選びなさい。
1 都道府県知事の権限による強制入院のことである。
2 入院には、 2名以上の精神保健指定医の診察が必要である。
3 72時間に限り、指定病院に入院させることである。
4 入院に同意する「家族等」には、後見人と保佐人が含まれる。
5 精神科病院への入院時に最優先に選択されるよう法律に定められている。
1 都道府県知事の権限による強制入院のことである。
これは「措置入院」です。
2 入院には、 2名以上の精神保健指定医の診察が必要である。
これは「措置入院」です。
3 72時間に限り、指定病院に入院させることである。
これは「応急入院」です。
4 入院に同意する「家族等」には、後見人と保佐人が含まれる。
これが正解です。
5 精神科病院への入院時に最優先に選択されるよう法律に定められている。
「任意入院」への努力義務が規定されています。
第22回 問題10
次の記述のうち、医療保護入院を検討すべき要件として、適切なものを1つ選びなさい。
1 本人が入院に同意する場合
2 本人が身体的虐待を受けている場合
3 本人に精神疾患に対する病識がなく、入院治療の必要性を理解できない場合
4 医療や保護に急速を要し、家族等の同意を得ることができない場合
5 自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがある場合
1 本人が入院に同意する場合
これは「任意入院」です。
2 本人が身体的虐待を受けている場合
これは安全確保が第一で、医療保護入院とはズレています。
3 本人に精神疾患に対する病識がなく、入院治療の必要性を理解できない場合
これが正解です。本人の意思による任意入院が難しい場合に検討されます。
4 医療や保護に急速を要し、家族等の同意を得ることができない場合
これは「応急入院」です。
5 自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがある場合
これは「措置入院」です。
第19回 問題61
「精神保健福祉法」に規定されている入院に関する次の記述のうち、正しいものを2つ選びなさい。
1 精神科病院の管理者は、精神障害者を入院させる場合、本人の同意に基づいて入院が行われるように努めなければならない。
2 任意入院は、精神保健指定医の診察により、24時間以内に限り退院を制限することができる。
3 医療保護入院は、本人の同意がなくても、家族等のうちいずれかの者の同意に基づき行われる。
4 医療保護入院は、患者に家族等がいない場合、都道府県知事の同意により入院させることができる。
5 措置入院は、自傷他害のおそれがあると認めた場合、警察署長の権限により入院させることができる。
(注)「精神保健福祉法」とは、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」のことである。
1 精神科病院の管理者は、精神障害者を入院させる場合、本人の同意に基づいて入院が行われるように努めなければならない。
正しいです。「任意入院」の努力義務です。
2 任意入院は、精神保健指定医の診察により、24時間以内に限り退院を制限することができる。
間違いです。72時間です。
3 医療保護入院は、本人の同意がなくても、家族等のうちいずれかの者の同意に基づき行われる。
正しいです。
4 医療保護入院は、患者に家族等がいない場合、都道府県知事の同意により入院させることができる。
間違いです。都道府県知事ではなく市町村長です。
5 措置入院は、自傷他害のおそれがあると認めた場合、警察署長の権限により入院させることができる。
間違いです。警察署長ではなく都道府県知事の権限です。
第22回 問題62
次のうち、精神科病院の管理者が選任し、医療保護入院者の退院に向けた相談支援を担う者として、正しいものを 1 つ選びなさい。
1 精神保健福祉相談員
2 相談支援専門員
3 地域援助事業者
4 退院後生活環境相談員
5 生活支援員
選択肢4が正解です。
第22回 問題67
「医療観察法」における鑑定入院に関する次の記述のうち、正しいものを2つ選びなさい。
1 医学的観点から「医療観察法」に基づく入院による医療の必要性について意見をまとめる。
2 検査・診断のみならず、精神科治療も行われる。
3 「精神保健福祉法」で規定された指定病院において実施される。
4 入院期間は、原則 4 週間が限度とされている。
5 鑑定は、精神保健審判員が実施する。
(注)1 「医療観察法」とは、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」のことである。
2 「精神保健福祉法」とは、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」のことである。
1 医学的観点から「医療観察法」に基づく入院による医療の必要性について意見をまとめる。
正しいです。
2 検査・診断のみならず、精神科治療も行われる。
正しいです。精神科治療を行うことで、通院治療が可能であるか入院治療が必要であるか等の判断が行われます。
3 「精神保健福祉法」で規定された指定病院において実施される。
間違いです。鑑定入院は「鑑定入院医療機関」で実施されます。
4 入院期間は、原則4週間が限度とされている。
間違いです。鑑定入院期間は原則として2か月以内で必要な場合は1か月の延長が可能です。
5 鑑定は、精神保健審判員が実施する。
間違いです。鑑定は鑑定入院した対象者の鑑定を行うよう裁判所に命令された医師が行います。
この鑑定医の条件は、精神保健判定医または同等以上の学識経験を有する医師とされています。
第25回 問題10
Aさん(20歳、男性)は、両親と兄の4人家族である。Aさんは、3か月前から自室で独り言をつぶやきながら、くぎを壁に抜き差しするなどの奇異な行動があった。母親に注意されると、 「テレパシーが送られてきた。「やめたらお前の負けだ』という声が聞こえてくる」と言い、夜間も頻回に行っていた。また、過去には、母親が早く寝るように言うと、殴りかかろうとしたこともあった。Aさんは、次第に食事や睡眠が取れなくなり、父親に伴われ、精神科病院を受診した。Aさんは、 父親と精神保健指定医による入院の勧めに同意した。
次のうち、この場合の人院形態として、正しいものを1つ選びなさい。
1 措置入院
2 任意入院
3 医療保護入院
4 緊急措置入院
5 応急入院
本人が入院に同意していますので、選択肢2が正解です。
公認心理師 第5回 問33
自傷他害のおそれはないが、幻覚妄想があり、入院を必要とする精神障害者で、本人も入院を希望している。この場合に適用される精神保健及び精神障害者福祉に関する法律<精神保健福祉法>に基づく入院形態として、適切なものを1つ選べ。
① 応急入院
② 措置入院
③ 任意入院
④ 医療保護入院
⑤ 緊急措置入院
本人が希望しているので、選択肢③の任意入院です。
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次は、社会的入院について。
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