精神障害者の入院について
平成30年時点での統計によると、精神疾患のある患者数は約400万人、うち、精神病床への入院患者数は30万人弱となっています。
下のグラフは「精神障害者の平均在院日数」(厚生労働省HP)のグラフです。
日本は1990年頃は、精神障害者の平均在院日数は500日近くもあり、その後減ってはいるものの、諸外国と比較して突出して日本だけ長期に入院していることがわかります。
このような精神障害者の長期入院の問題は、患者本人や家族の負担だけでなく、コロナ禍での病床確保問題や国の財政支出の増加など多くの課題を引き起こします。
まず、精神障害者の入院については、①任意入院、②医療保護入院、③措置入院、という形があり、本人の同意による任意入院以外は全て強制的に入院させる仕組みになっています。
特に近年増加傾向にある「医療保護入院」は、家族等の同意があれば精神保健指定医1名の診断で「都合よく」入院させられる入院形態です。
本人の同意による任意入院であっても、いったん同意すればその後は自由に入退院ができず入院期間が長期化する傾向があります。
入院が長期に及ぶと診療報酬を減額することで長期入院の抑制が図られてるにも関わらず長期入院患者が減らない原因は、制度の問題というより家族など引き取り手側に拒否される等の家庭環境が原因で退院できないケースが多いと考えられます。
入院が長期化することで患者の社会性や生活習慣が衰退し、さらに退院しにくくなってしまうという悪循環も起こります。
入院形態 | 本人の同意 | 家族等の同意 | 精神保健指定医の診察 | その他の条件 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
任意入院 | 有り | 無し | 無し | 書面による本人意思の確認 | 本人の申し出で退院可能だが精神保健指定医の判断で72時間の退院制限可能 |
医療保護入院 | 不可 | 有り | 1名 | 入退院後10日以内に知事に届け出 | |
措置入院 | 不可 | 不可 | 2名 | 自傷他害のおそれがある | 国立・都道府県立精神科病院または指定病院に限る |
上表にあるように、「措置入院」は精神保健指定医2名の診察が必要でハードルが高いため、精神保健指定医1名の診察で都合よく入院させられる「医療保護入院」が近年増加しています。
医療保護入院は本人の同意無しで家族等(配偶者、親権者、扶養義務者、後見人又は保佐人、該当者がいない場合は市町村長)の同意で精神保健指定医1名の診察があれば強制的に入院させられる入院形態です。
このような制度は日本にしかなく人権侵害だとして諸外国ではありえません。
精神保健福祉を担う精神保健福祉法は、「精神障害者の医療及び保護」を目的と掲げており、「病院への入院という形の保護」が福祉と捉えられています。
医療保護入院や措置入院といった強制的な入院が精神保健福祉の一つの形として定着し、そのような入院の仕組みが入口となって長期入院につながっている構図があります。
社会的入院とは
本人が退院できる状況であっても、家族など引き取り手側に拒否されて退院できない所謂「社会的入院」による入院の長期化も大きな課題になっています。
社会的入院は公的な医療保険が利用できるため、自宅で介護が難しい家族が小さな負担で入院させることができるという点も惰性的な長期入院に繋がっています。
長期入院問題への対策
このような精神障害者の長期入院問題に対して、入院の日数制限や入院費の包括支払制度の導入などが制度的対策として考えられますが、諸外国では長期入院対策として、医療チームが連携して在宅医療や訪問診療を進める在宅入院制度を導入している例も見られます。
精神保健福祉士として、このような制度の整備や変更はハードルが高いものですが、ひとりの精神保健福祉士が長期入院患者に対して直接的にできることとしては、患者の悩みを聞き不安や心配を軽減すること、患者の家族へ働きかけ調整を行うこと、入院形態の切り替えが必要な場合には説明を行うこと、退院後の生活に向けた相談に乗ること、福祉サービス(地域移行支援、地域定着支援)の利用をコーディネートして地域移行を実現していくこと、などは重要な役割だと思います。
過去問
以下の問題は古い問題なので、サラッと流してください。ここでは「社会的入院」の意味を押さえていただいて、より重要な「精神障害者の入院形態」をしっかり学びましょう。
第11回 問題35
受入条件が整えば退院可能(いわゆる社会的入院)な者に関する次の記述のうち、誤っているものを一つ選びなさい。
1 保健所法が地域保健法に改正(平成6年)され、保健所に精神障害者の退院促進にかかる業務を義務づけた。
2 総務庁行政監察局は監査報告書「ノーマライゼーションの実現に向けて」(平成8年)において、入院の長期化を指摘しつつ社会的入院の解消の促進について勧告している。
3 「今後の精神保健医療福祉施策について」(平成14年)の基本的な考え方において、「受入条件が整えば退院可能」な約7万2千人の退院、社会復帰を図ることを取り上げた。
4 精神科病院に入院している精神障害者のうち、病状が安定しており、受入条件が整えば退院可能である者に対し、社会的自立を促進する目的で「精神障害者退院促進支援事業」(平成15年)に関する通知が出された。
5 「精神保健医療福祉の改革ビジョン」(平成16年)によって、「国民の理解の深化」、「精神医療の改革」、「地域生活支援の強化」の枠組みとそれぞれの推進を図る数値目標が示された。
誤っているのは選択肢1です。
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精神科病院に入院したらどのような処遇を受けるのでしょう。
次は、精神科病院について見ていきましょう。
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