世界保健機関WHO
オタワ憲章
世界保健機関(WHO:World Health Organization)は、1986年にオタワ憲章を採択し「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるプロセス」として、ヘルスプロモーションを定義しています。
精神疾患を有する者の保護及びメンタルヘルスケアの改善のための諸原則
WHOは、1991年4月に「精神疾患を有する者の保護及びメンタルヘルスケアの改善のための諸原則」を採択しています。
以下の25原則からなります。余裕があれば、下のファイルから詳細を見ておきましょう。
原則2 未成年者の保護
原則3 地域社会における生活
原則4 精神疾患を有することの判定
原則5 医学的診察
原則6 秘密の保持
原則7 地域社会と文化の役割
原則8 ケアの基準
原則9 治療
原則10 薬物投与
原則11 治療への同意
原則12 権利の告知
原則13 精神保健施設における権利と条件
原則14 精神保健施設のための資源
原則15 入院の原則
原則16 非自発的入院
原則17 審査機関
原則18 手続き的保障
原則19 情報へのアクセス
原則20 刑事犯罪者
原則21 不服
原則22 監督と救済
原則23 実施
原則24 精神保健施設に関する諸原則の範囲
原則25 既得権の留保
メンタルヘルスギャップアクションプログラム
WHOが2008年に開始したメンタルヘルスギャップアクションプログラム(mhGAP:Mental Health Gap Action Programme)は、特に中低所得国において精神・神経・物質使用障害に苦しむ人びとのケアの拡充を目的として開発されました。
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メンタルヘルスの格差(ギャップ)是正が目的だね。
アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略
アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略は、アルコールの有害な使用を減少させる目的で、2010年にWHOで採択されました。
メンタルヘルスアクションプラン 2013-2020
WHOのメンタルヘルスアクションプランには「メンタルヘルスなしに健康なし」という世界的に受け入れられた原則があります。
さらに2021年には「メンタルヘルスアクションプラン2013 – 2020」が更新され、2030年まで延長した計画が発表されました。
障害調整生命年DALY
障害調整生命年(DALY:Disability-Adjusted Life Years)は、病的状態、障害、早死により失われた年数を意味した疾病負荷を総合的に示す指標です。1990年代初めにハーバード大学のマレー(Murray,C.)教授らが開発し、その後WHOや世界銀行が世界の疾病負担の総合的な指標として公表しています。
病気や障害によって「①寿命がどの程度縮んだか」に加えて、「②健康な生活がどの程度奪われたか」を計算し、その病気や障害を評価するものです。DALYは、早死にすることによって失われた年数(YLL:the years of life lost)」と、障害を有することによって失われた年数(YLD:the years lost due to disability)の合計で算出されます。
例えば精神障害は①としては小さなものなので従来は精神疾患が過小評価されていましたが、②としては大きいので、精神障害の疾病負荷は小さくありません。
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精神保健福祉士過去問には障害調整生命年として出題されていたことがあるけど、一般的には障害調整生存年と呼ばれるよ。
メンタルヘルスアトラスプロジェクト
メンタルヘルスアトラスプロジェクトは、世界各国の精神保健システムの現状を把握するために、メンタルヘルスに関する政策、法律、資金調達、人材、サービスの利用状況、精神医療体制等に関する情報についてのデータを収集し、公開する取組です。アトラスを3年ごとに発行しています。
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アトラスというのは地図帳という意味だね。
世界精神医学会WPA
世界精神医学会(WPA:World Psychiatric Association)は、精神医学に関する情報を集め広く伝達するための組織で1950年にパリで発足しました。
本部はロンドンにあり4年に1回大会を開催しています。第12回大会は平成14年に横浜で開催されました。
アンチスティグマプログラム「Open the Door」
アンチスティグマプログラムは、1996年の統合失調症に対する偏見や差別と闘うWPAの世界プログラムです。
世界精神保健連盟WFMH
世界精神保健連盟(WFMH:World Federation for Mental Health)は、WHOが定める世界精神保健デーの中心機関で、啓発運動や偏見の除去を行っています。
1992年に世界精神保健連盟は、メンタルヘルス問題に関する世間の意識を高め偏見をなくし正しい知識を普及することを目的として、10月10日を「世界メンタルヘルスデー」と定めました。
その後、世界保健機関(WHO)も協賛し、正式な国際デー(国際記念日)とされています。
過去問
第23回 問題20
WHOによるメンタルヘルスアクションプラン 2013-2020 に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 国際疾病分類(ICD)の改訂を目標とした。
2 アルマ・アタ宣言とも呼ばれている。
3 「メンタルヘルスなしに健康なし」を原則としている。
4 精神疾患を有する者の非自発的な入院をなくすことが目標に定められた。
5 中低所得国における精神保健サービスの拡充を主たる目的としている。
1 国際疾病分類(ICD)の改訂を目標とした。
「メンタルヘルスアクションプラン2013-2020」とICDは関係ありません。
2 アルマ・アタ宣言とも呼ばれている。
アルマ・アタ宣言では「プライマリ・ヘルスケア」が提唱されましたが、「メンタルヘルスアクションプラン2013-2020」とは関係ありません。
3 「メンタルヘルスなしに健康なし」を原則としている。
これが正解です。
4 精神疾患を有する者の非自発的な入院をなくすことが目標に定められた。
間違いです。措置入院などをなくすことを目標にするのは、少しズレています。
「メンタルヘルスなしに健康なし」を原則として、「精神的に満たされた状態」を促進し、精神障害を予防し、ケアを提供し、リカバリーを促し、人権を促進し、そして精神障害を有する人々の死亡率、罹患率、障害を低減することを目標として、掲げられています。
5 中低所得国における精神保健サービスの拡充を主たる目的としている。
間違いです。これは「メンタルヘルス・ギャップ・アクションプログラム」の目的です。
第22回 問題13
次のうち、WHOが作成したものとして、正しいものを1つ選びなさい。
1 DSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)
2 WRAP(元気回復行動プラン)
3 ヘルシーピープル 2010
4 メンタルヘルスアクションプラン 2013-2020
5 THP(トータルヘルスプロモーションプラン)
1 DSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)
間違いです。DSMはアメリカ精神医学会が作成しています。
2 WRAP(元気回復行動プラン)
間違いです。WRAPはアメリカのメアリー・エレン・コープランドを中心に考案されたものです。
3 ヘルシーピープル 2010
間違いです。ヘルシーピープル2010は、米国保健福祉省によって設定されたプログラムです。
4 メンタルヘルスアクションプラン 2013-2020
これが正解、WHOが作成しました。
5 THP(トータルヘルスプロモーションプラン)
間違いです。THPは厚生労働省が作成したものです。
第22回 問題37
次のうち、国連総会で採択された「精神疾患を有する者の保護及びメンタルヘルスケアの改善のための諸原則」(1991年)の記述として、正しいものを2つ選びなさい。
1 精神疾患を有するすべての者は、可能な限り地域社会に住み、及びそこで働く権利を有する。
2 精神疾患を有するという判定は、各精神保健施設内で定めた医学的基準による。
3 すべての患者の治療及びケアは、個別的に立案された治療計画に基づいて行われなければならない。
4 すべての患者は、病状が不安定な場合を除き、自己の居住する地域社会において治療及びケアを受ける権利を有する。
5 インフォームドコンセントとは、患者の理解しうる方法と言語によって、十分にかつ患者に理解できるように説明することである。
(注)「精神疾患を有する者の保護及びメンタルヘルスケアの改善のための諸原則」の日本語訳は厚生科学研究班の仮訳によるものである。
1 精神疾患を有するすべての者は、可能な限り地域社会に住み、及びそこで働く権利を有する。
正しいです。原則3に規定されています。
2 精神疾患を有するという判定は、各精神保健施設内で定めた医学的基準による。
間違いです。原則4の精神疾患を有することの判定において、「精神疾患を有するという判定は、国際的に認められた医学的基準による。」としています。
3 すべての患者の治療及びケアは、個別的に立案された治療計画に基づいて行われなければならない。
正しいです。原則9に規定されています。
4 すべての患者は、病状が不安定な場合を除き、自己の居住する地域社会において治療及びケアを受ける権利を有する。
間違いです。原則7の地域社会と文化の役割において、「すべての患者は、可能な限り自己の居住する地域において治療およびケアを受ける権利を有する。」としています。
5 インフォームドコンセントとは、患者の理解しうる方法と言語によって、十分にかつ患者に理解できるように説明することである。
間違いです。原則11の治療への同意において、「インフォームドコンセントとは、患者の理解しうる方法と言語によって、情報を、十分に、かつ、患者に理解できるように伝達した後、患者の自由意思により、脅迫又は不当な誘導なしに得られた同意をいう。」としています。
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コンセントは「同意」という意味だね。
第19回 問題19
精神保健に関する略称とその日本語表記の組合せとして、正しいものを2つ選びなさい。
1 WPA —– 世界精神医学会
2 NSF —– 精神保健世界行動計画
3 DALY —– 障害調整生命年
4 WFMH —– 世界家庭医機構
5 QOL —– 精神健康調査票
1 WPA —– 世界精神医学会
正しいです。WPA(World Psychiatric Association)は「世界精神医学会」です。
2 NSF —– 精神保健世界行動計画
間違いです。NSF(National Service Framework)は、「ナショナル・サービス・フレームワーク」です。
イギリスでは1999年に精神保健施策10か年計画ともいうべき「精神保健に関するナショナル・サービス・フレームワーク」が発表されました。
3 DALY —– 障害調整生命年
正しいです。DALY(Disability-Adjusted Life Years)は「障害調整生命年」です。
4 WFMH —– 世界家庭医機構
間違いです。WFMH(World Federation for Mental Health)は「世界精神保健連盟」です。
5 QOL —– 精神健康調査票
間違いです。QOL(Quality Of Life)は「クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)」です。
第23回 問題11
次の記述のうち、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針 2014」に示されている内容として、正しいものを2つ選びなさい。
1 うつ病に伴う不眠症状では、睡眠による休養感の欠如が最も特徴的である。
2 成人してから加齢するにつれて夜間の睡眠時間が増加する。
3 蓄積された睡眠不足に伴う作業能率は「寝だめ」で十分回復する。
4 睡眠薬代わりの寝酒は睡眠を悪くする。
5 眠くなくても、寝床に入る習慣をつける。
1 うつ病に伴う不眠症状では、睡眠による休養感の欠如が最も特徴的である。
正しいです。
不眠症状1位:睡眠による休養感の欠如
不眠症状2位:入眠困難、中途覚醒、早期覚醒など
2 成人してから加齢するにつれて夜間の睡眠時間が増加する。
間違いです。加齢により睡眠時間は減少していきます。高齢者は早起きですね。
加齢の影響により深い睡眠であるノンレム睡眠より浅い睡眠のレム睡眠が増加するためです。
3 蓄積された睡眠不足に伴う作業能率は「寝だめ」で十分回復する。
間違いです。寝だめは効果がありません。
4 睡眠薬代わりの寝酒は睡眠を悪くする。
正しいです。寝酒をすると浅い睡眠であるレム睡眠が多くなります。
5 眠くなくても、寝床に入る習慣をつける。
間違いです。「健康づくりのための睡眠指針2014」によると、「意図的に早く寝床に就くと、かえって寝つきが悪くなる」とされています。
第20回 問題19
DALY( 障害調整生命年 )に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。1 平均寿命と健康寿命( 日常生活に制限のない期間の平均 )の差から求める。2 疾患の有病率とジニ係数から求める。3 患者と家族の疾患による経済的損失を合計して求める。4 有病率と集団の調査対象者全員の数の積から求める。5 疾患による損失生存年数と障害生存年数を合計して求める。
選択肢5が正解です。
第24回 問題19
- 次のうち、疾患による損失生存年数と障害生存年数の合計で表される指標として、正しいものを1つ選びなさい。
1 DUP
2 ADL
3 DALY
4 QOL
5 SDGs
1 DUP
DUP(Duration of Untreated Psychosis)は、精神疾患未治療期間です。
2 ADL
ADL(Activities of Daily Living)は、日常生活を送るために最低限必要な日常的な動作のことです。
3 DALY
これが正解、障害調整生命年です。
4 QOL
QOL(Quality of Liife)は、生活の質です。
5 SDGs
SDGs(Sustainable Development Goals)は、持続可能な開発目標です。
第24回 問題20
- WHO(世界保健機関)の取組に関する次の記述のうち、適切なものを1つ選びなさい。
1 国際疾病分類の改訂版では、DSM-5を採用している。
2 オタワ憲章は、障害を3次元で分類している。
3 メンタルヘルスアトラスプロジェクトは、構造化面接法を用いて世界各国における精神疾患の罹患率を調査した研究事業である。
4 「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」は、世界の酒類の製造又は販売を行う事業者に向けた警告のための広告戦略である。
5 メンタルヘルスギャップアクションプログラム(mhGAP)は、特に中低所得国における精神・神経・物質使用の障害へのケアを拡充することを目的にしている。
1 国際疾病分類の改訂版では、DSM-5を採用している。
誤りです。国際疾病分類はDSMではなくICDです。
2 オタワ憲章は、障害を3次元で分類している。
誤りです。障害を3次元で分類しているのは、国際生活機能分類ICFです。
3 メンタルヘルスアトラスプロジェクトは、構造化面接法を用いて世界各国における精神疾患の罹患率を調査した研究事業である。
誤りです。メンタルヘルスアトラスプロジェクトは、構造化面接法を用いません。
4 「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」は、世界の酒類の製造又は販売を行う事業者に向けた警告のための広告戦略である。
誤りです。アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略は、アルコールの有害な使用を減少させる目的で、2010年にWHOで採択されました。
5 メンタルヘルスギャップアクションプログラム(mhGAP)は、特に中低所得国における精神・神経・物質使用の障害へのケアを拡充することを目的にしている。
正しいです。
第26回 問題19
- 次のうち、世界精神保健連盟(WFMH)が提唱し、国際連合が制定した国際デーとして、正しいものを1つ選びなさい。
1 世界メンタルヘルスデー
2 世界自閉症啓発デー
3 国際障害者デー
4 世界患者安全デー
5 世界自殺予防デー
1 世界メンタルヘルスデー
これが正解です。
2 世界自閉症啓発デー
2007年に国連総会で、毎年4月2日を「世界自閉症啓発デー」と定められました。
3 国際障害者デー
1982年12月3日に国連総会で「障害者に関する世界行動計画」が採択され、これを記念して、1992年の国連総会で、12月3日を「国際障害者デー」と定めました。日本では12月3日からの1週間を障害者週間と障害者基本法に規定しています。
4 世界患者安全デー
2019年にWHO総会で制定されました。
5 世界自殺予防デー
2003年にWHOと国際自殺予防学会が共同で開催した世界自殺防止会議の初日である9月10日を最初の世界自殺予防デーと定めました。
第26回 問題39
- 次のうち、国連総会で採択された「精神疾患を有する者の保護及びメンタルヘルスケアの改善のための諸原則」(1991年)の内容として、正しいものを2つ選びなさい。
1 入院原則として、精神保健施設へのアクセスは他の疾患とは異なる方法で行われる。
2 患者の精神状態により、インフォームド・コンセントの権利を放棄するように求めたり、また放棄を勧めたりすることができる。
3 精神疾患を有するとの判定は、各国が独自に認めた医学的基準に即して行われるものとする。
4 不妊手術は、精神疾患の治療として、決してこれを行わないものとする。
5 すべての人は、可能な最善のメンタルヘルスケアを受ける権利を有する。
(注) 「精神疾患を有する者の保護及びメンタルヘルスケアの改善のための諸原則」の日本語訳は、厚生科学研究班の仮訳によるものである。
1 入院原則として、精神保健施設へのアクセスは他の疾患とは異なる方法で行われる。
誤りです。「入院原則」では、精神保健施設へのアクセスは、他の疾患に関する施設へのアクセスと同様に行われるとされています。
2 患者の精神状態により、インフォームド・コンセントの権利を放棄するように求めたり、また放棄を勧めたりすることができる。
誤りです。「治療への同意」では、患者はインフォームド・コンセントの権利を放棄するよう勧められたり誘導されたりしてはならないとされています。
3 精神疾患を有するとの判定は、各国が独自に認めた医学的基準に即して行われるものとする。
誤りです。「精神疾患を有することの判定」では、国際的に認められた医学的基準によるとされています。
4 不妊手術は、精神疾患の治療として、決してこれを行わないものとする。
正しいです。
5 すべての人は、可能な最善のメンタルヘルスケアを受ける権利を有する。
正しいです。
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次は、国際生活機能分類ICFについて。
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