自然災害や大事故に遭遇した人たちに対しては、物質的な支援だけでなく心理的支援も重要です。
(心理的)デブリーフィング
デブリーフィングは、災害や精神的ショックを経験した人々に対して行われる、急性期(災害直後の数日~数週間)の介入のことです。
ブリーフは「簡潔な、簡単な」、ブリーフィングは「簡単な打ち合わせ」などの意味でビジネスでは使われますが、そこから派生してデブリーフィングは「急性期の応急処置」のような意味ですね。
デブリーフィングは1990年代まではPTSDの発症を予防する手法として用いられたこともあったのですが、効果が実証されず、現在では緊急時支援としてのデブリーフィングは行われません。
それに代わってできるだけ安全な支援方法として「サイコロジカル・ファーストエイド」がWHOなどによって開発されました。
サイコロジカル・ファーストエイド
サイコロジカル・ファーストエイドは、災害や事故、テロ等の直後に実施される心理的支援や社会的支援のことです。
サイコロジカルという言葉が使われていますが、心理的支援だけでなく社会的支援などの包括的な支援が実施されます。
詳細は、以下の「サイコロジカル・ファーストエイド」実施の手引きをご参照ください。
①被災者に近づき活動を始める
②安全と安心感
③安定化
④情報を集める
⑤現実的な問題の解決を助ける
⑥周囲の人々との関わりを促進する
⑦対処に役立つ情報
⑧紹介と引継ぎ
サイコロジカル(心理的)とありますが、食料や衣類などの物質的支援も含まれます。
トリアージ
トリアージとは、重傷度や緊急度に応じた「傷病者の振り分け」のことです。
大災害では現場でトリアージされ「緊急」とされた被災者が病院へ搬送され、 PFA提供者はそこで医療的介入、心理的介入、行動上の介入、投薬など、必要に応じて振り分けます。
二次受傷
二次受傷とは、災害、事故、犯罪などの悲惨な体験を負った人の話を聞いたり現場を目撃することで、被害者と同様のPTSD症状を発症することをいいます。
災害派遣精神医療チーム(DPAT)
DPATは、自然災害や事故、犯罪など後、被災地域に入り精神科医療および精神保健活動の支援を行う専門的なチームです。
厚生労働省HPにはDPATの定義が以下のように書かれています。
各班は、被災地の交通事情やライフラインの障害等、あらゆる状況を想定し、交通・通信手段、宿泊、日常生活面等で自立している必要がある。
ということで、DPATは都道府県や政令指定都市が組織することを覚えておきましょう。
似たようなチームに、DMAT、DWAT、DCATがあります。
その違いは下の記事で。
過去問
第22回 問題17
災害時の精神保健に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 災害発生後 48時間以内に被災者が呈する精神症状を心的外傷後ストレス障害 (PTSD)という。
2 厚生労働省によって組織される専門的な研修・訓練を受けたチームを災害派遣精神医療チーム(DPAT)いう。
3 重度の精神障害者のために考案された介入法をサイコロジカル・ファーストエイド(PFA)という。
4 被災者の治療優先順位を決める手法をデブリーフィングという。
5 被災者へのケア活動によって、被災を直接経験していない支援者に生じる外傷性ストレス反応のことを二次受傷という。
1 災害発生後 48時間以内に被災者が呈する精神症状を心的外傷後ストレス障害 (PTSD)という。
間違いです。PTSDは48時間以内ではありません。
2 厚生労働省によって組織される専門的な研修・訓練を受けたチームを災害派遣精神医療チーム(DPAT)という。
間違いです。DPATは、厚生労働省ではなく都道府県及び政令指定都市によって組織されるチームです。
3 重度の精神障害者のために考案された介入法をサイコロジカル・ファーストエイド(PFA)という。
間違いです。サイコロジカル・ファーストエイド(PFA)とは、心理的応急処置という意味です。重度の精神障害者のためではなく、深刻な危機的出来事に見舞われた人に対しての支援です。
4 被災者の治療優先順位を決める手法をデブリーフィングという。
間違いです。デブリーフィングとは、災害直後から数週間後に行われる急性期介入のことをいいます。
5 被災者へのケア活動によって、被災を直接経験していない支援者に生じる外傷性ストレス反応のことを二次受傷という。
これが正解です。
第19回 問題15
災害時の精神保健活動に関する用語とその説明に関する次の組合せのうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 災害派遣精神医療チーム(DPAT) —– 都道府県や政令指定都市によって組織される専門的な研修・訓練を受けたチーム
2 サイコロジカル・ファーストエイド(PFA) —– 精神科医による専門的精神療法
3 災害医療におけるトリアージ —– 緊急事態ストレスを経験した人への心理的介入法
4 災害時こころの情報支援センター —– 都道府県が設置する情報センター
5 デブリーフィング(debriefing) —– 不安や恐怖に対する薬物療法
1 災害派遣精神医療チーム(DPAT) —– 都道府県や政令指定都市によって組織される専門的な研修・訓練を受けたチーム
これが正解です。
2 サイコロジカル・ファーストエイド(PFA) —– 精神科医による専門的精神療法
間違いです。サイコロジカルファーストエイドは、災害早期の心理的支援です。
3 災害医療におけるトリアージ —– 緊急事態ストレスを経験した人への心理的介入法
間違いです。トリアージとは、治療などの優先順位を決めることです。
4 災害時こころの情報支援センター —– 都道府県が設置する情報センター
間違いです。災害時こころの情報支援センターは、厚生労働省の委託事業として、国立精神・神経医療研究センターに設置されています。そして、全国の被災県のこころのケアセンターの設置や、全国の総合的な調整指導やデータ分析を行っています。
5 デブリーフィング(debriefing) —– 不安や恐怖に対する薬物療法
間違いです。デブリーフィングは、急性期の災害・精神的ショックに対する援助の方法で、薬物療法ではなくグループで詳しく話すことでつらさを克服する手法です。
最近ではPTSDの症状をむしろ悪化させる例もあるので注意が必要とされています。
第25回 問題16
N県で大規模災害が発生したことから、P県に勤務するC精神保健福祉士に対し、その担当部者より被災地支援チームの一員として参加するよう要請がなされた。当該支援チームの主な活動内容は、急性期の精神科医療ニーズへの対応、精神保健医療ニーズの把握、他の保健医療体制の連携、専門性の高度精神科医潦の提供と精神保健活動の支援である。C精神保健福祉士は国が認めた専門的な研修・訓練も受け、 同チームの構成メンバーとして登録されている 。
次のうち、このチームの名称として、正しいものを1つ選びなさい。
1 DHEAT
2 DMAT
3 DPAT
4 DWAT
5 JMAT
選択肢3が正解です。
公認心理師 第1回 問1
サイコロジカル・ファーストエイドを活用できる場面として、最も適切なものを1つ選べ。
①インテーク面接
②予定手術前の面接
③心理検査の実施場面
④事故現場での被害者の救援
⑤スクールカウンセリングの定期面接
選択肢④が正解です。
公認心理師 第1回 問124
巨大な自然災害の直後におけるサイコロジカル・ファーストエイドについて、適切なものを2つ選べ。
①被災者の周囲の環境を整備し、心身の安全を確保する。
②被災者は全て心的外傷を受けていると考えて対応する。
③被災体験を詳しく聞き出し、被災者の感情表出を促す。
④食料、水、情報など生きていく上での基本的ニーズを満たす手助けをする。
⑤被災者のニーズに直接応じるのではなく、彼らが回復する方法を自ら見つけられるように支援する。
①被災者の周囲の環境を整備し、心身の安全を確保する。
正しいです。
②被災者は全て心的外傷を受けていると考えて対応する。
間違いです。そんなことはありません。
③被災体験を詳しく聞き出し、被災者の感情表出を促す。
間違いです。
被災者の感情表出を促す(心理的デブリーフィング)はサイコロジカル・ファーストエイドとしては不適切です。
④食料、水、情報など生きていく上での基本的ニーズを満たす手助けをする。
正しいです。
⑤被災者のニーズに直接応じるのではなく、彼らが回復する方法を自ら見つけられるように支援する。
間違いです。サイコロジカル・ファーストエイドとしては不適切です。
被災者のニーズに直接応じます。
次の記事
ここからは、組織運営に関連した内容に入ります。
まずは、リスクマネジメントについて。
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