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【精神保健福祉の歴史(人物編)】精神障害者が虐げられてきた歴史に抗った人たち

精神保健福祉の歴史精神医療&精神保健
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精神障害(精神疾患)は最近の病気でしょうか。

自閉症やADHDのような発達障害はここ100年のうちに出てきた現代病で、大昔からあるものではありません。

しかし精神障害(精神疾患)は数百年前から存在する疾患で、歴史は古く、18世紀に遡ります。

その歴史は、差別や偏見との闘いでした。

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「精神医学の父」フィリップ・ピネル@フランス

18世紀末のフランスでは、精神障害者は鎖に繋がれ、人権などありませんでした。

そもそも精神障害は病気や疾患であるという認識がなく、精神疾患というだけで迫害や処罰が行われているような、ひどい状態でした。

1745年にフランスで生まれたフィリップ・ピネル(Pinel, P.)は、医学部に進学し、親友が精神系疾患になったのをきっかけに精神科医になりました。

フィリップ・ピネル

当時、精神障害者の人権が無視されていたフランスで、彼は精神病患者や囚人を収監していた病院に就職し、閉鎖病棟で鎖につながれている患者と出会います。

そこで閉鎖病棟から精神病患者を開放させ、「精神病患者を鎖から解き放った医者」と呼ばれるようになりました。

彼は、薬の過剰投与や薬物依存を戒め、心理療法など人道的な心理学的臨床をベースに治療を行いました。

患者の人権を尊重し、人道的精神医学の創始者です。「精神医学の父」と呼ばれるだけありますね。

エミール・クレペリン@ドイツ

エミール・クレペリン

1856年に北ドイツで生まれたエミール・クレペリン(Kraepelin.E.)は、近代精神医学の基礎を作りあげます。

クレペリンは「内田クレペリン検査」のクレペリンです。

クレペリンは、精神病を「統合失調症」と「躁鬱病(双極性障害)」の2種類に分類し、精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)にも影響を与えています。

「統合失調症」と「躁うつ病」という専門用語が出てきたことで、精神病が精神疾患として認知されやすくなりました。

クリフォード・ホイティンガム・ビアーズ@アメリカ

アメリカの精神衛生運動家だったビアーズ(Beers, C.)は、1908年に自らの精神病院での過酷な体験(入院患者への暴行や虐待)を「わが魂にあうまで」という本にしました。

この本は、精神保健福祉士を目指す人なら必ず読まなければなりません。

ビアーズは精神衛生運動を展開し、アメリカの精神衛生運動の先駆者となり、精神病患者への理解は徐々に進んでいきました。

フランコ・バザーリア@イタリア

1924年イタリアのヴェネチアに生まれたバザーリア(Basaglia, F. )は精神医学を学び、精神病院の院長になりました。

彼は精神病院の環境改善に取り組み、窓の鉄格子を外し、拘束衣や白衣も廃止します。

バザーリアの最も大きな功績としては、1978年に制定された「第180号法」(通称バザーリア法)があります。

これは世界初の精神科病院廃絶法で、精神科病院の新設や精神科病院への新規入院を禁止し、予防・医療・福祉は原則として地域精神保健サービス機関で行うというものでした。

バザーリアの生涯は映画にもなっています。

呉秀三@日本

呉秀三

日本の精神医学の父といえば、呉秀三です。

精神科医である呉秀三は、日本における近代的な精神病学の創立者で、1901年に東京帝国大学医科大学教授に就任します。

巣鴨病院医長(松沢病院の前身)に就任した彼は、手枷、足枷、拘束衣の使用を禁じ隔離室の使用を制限します。拘束具を自分の手元に集めすべて焼却。並行して隔離室の面積を広げ窓を設け、一般病室の患者には作業を提供したりレクリエーションを取り入れ情操の安定に努めた結果、入院患者は穏やかな日常を取り戻し隔離患者が大幅に減少しました。

1902年、日本における最初の精神衛生団体である精神病者慈善救治会を組織します。

1910年、被監置精神病者の実態調査を開始します。

1918年、『精神病者私宅監置ノ実況及ビ其統計的観察』の中でいかのように書いています。

「わが邦十何万の精神病者は実にこの病を受けたるの不幸の他に、この邦に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし」

精神障害を患った不幸だけでなく、この国に生まれた不幸。日本の精神障害者施策がいかにひどかったかを物語っています。

野口英世@日本

野口英世

野口英世は、黄熱病の研究で有名なので精神保健のイメージはありませんが、「進行麻痺」を解明したという意味で精神保健福祉に貢献しています。

進行麻痺は、梅毒感染後に認知障害を示す脳疾患です。

記憶力低下や注意力欠乏、道徳観念の減退、性格の変化、うつ状態、そして麻痺性発作や認知症も進行し、手のふるえ、唇や舌などの麻痺による言語障害など、まさに精神疾患です。

千円札の人だね!

過去問

第18回 問題1

次のうち、精神科病院の廃止を訴え、法律第180号の制定運動に関わった人物として、正しいものを1つ選びなさい。
1 ブロイラー (Bleuler, E.)
2 クラーク (Clark, D.)
3 ピネル (Pinel, P.)
4 バザーリア (Basaglia, F. )
5 ジョーンズ (Jones, M)

1 ブロイラー (Bleuler, E.)
間違いです。ブロイラーは統合失調症の基本症状として、4つのA(連合弛緩、自閉性、感情の障害、両価性)を定義した人です。

2 クラーク (Clark, D.)
間違いです。クラーク博士といえばクラーク勧告です。
これはWHOが派遣したクラーク博士が日本の精神科医療の実態を調査し、長期入院患者の増加、地域福祉の充実とリハビリテーションの奨励、精神科病院の改善や統制の必要性などを指摘したものです。

3 ピネル (Pinel, P.)
間違いです。ピネルといえば「鎖からの開放」で有名な「精神医学の父」です。

4 バザーリア (Basaglia, F. )
これが正解です。バザーリアが制定運動に関わった「法律第180号」はバザーリア法とも呼ばれています。

5 ジョーンズ (Jones, M)
間違いです。ジョーンズといえば「治療共同体」です。
治療共同体とは、従来の精神科病院の管理主義に対して病院の全環境を治療手段として用いる方法のことです。

第16回 問題1

精神医学に貢献した人物に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 野口英世は、進行麻痺の解明に貢献した。
2 森田正馬は、司法精神医学の発展に貢献した。
3 呉秀三は、電気けいれん療法の普及に貢献した。
4 クレペリン(Kraepelin.E.)は、精神分析療法を創始した。
5 シュナイダー(schneider.K.)は、精神障害者の処遇改善に貢献した。

1 野口英世は、進行麻痺の解明に貢献した。
これが正解です。

2 森田正馬は、司法精神医学の発展に貢献した。
間違いです。森田正馬は森田療法の創始者です。

3 呉秀三は、電気けいれん療法の普及に貢献した。
間違いです。呉秀三(くれしゅうぞう)は、1902年に精神病者慈善救治会を設立して精神病者に対する治療と看護を援助しながら、精神病の治療や入院の必要性などを広く世間へ啓発しました。
電気けいれん療法といえば、チェルレッティ、安河内五郎、向笠広次らが挙げられます。

4 クレペリン(Kraepelin.E.)は、精神分析療法を創始した。
間違いです。クレペリンは精神病を統合失調症と躁うつ病(双極性障害)に分類したことで有名です。
精神分析療法といえばフロイトです。

5 シュナイダー(schneider.K.)は、精神障害者の処遇改善に貢献した。
間違いです。精神障害者の処遇改善に貢献したのは呉秀三(くれしゅうぞう)です。
シュナイダーと言えば「シュナイダーの一級症状」など統合失調症の研究があります。

第18回 問題36

精神保健医療福祉の事項と人物に関する次の組合せのうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 わが魂にあうまで ーーー 呉秀三
2 精神病者慈善救治会 ーーー ビアーズ(Beers, C.)
3 デイケア ーーー リバーマン(Liberman, R.)
4 社会生活技能訓練(SST) ーーー ビエラ(Bierer, J.)
5 当事者運動 ーーー オヘイガン(O’Hagan, M.)

1 わが魂にあうまで ーーー呉秀三
間違いです。「わが魂にあうまで」はビアーズの著書です。

2 精神病者慈善救治会 ーーー ビアーズ(Beers, C.)
間違いです。精神病者慈善救治会を設立したのは呉秀三です。

3 デイケア ーーー リバーマン(Liberman, R.)
間違いです。精神科デイケアはイギリスのビエラとカナダのキャメロンが始めました。

4 社会生活技能訓練(SST) ーーー ビエラ(Bierer, J.)
間違いです。社会生活技能訓練(SST)は1980年代リバーマンが開発しました。

5 当事者運動 ーーー オヘイガン(O’Hagan, M.)
これが正解です。オヘイガンは、ニュージーランドの当事者運動家で、ニュージーランド初のセルフヘルプグループである「世界精神医療ユーザーサバイバーネットワーク」を作りました。詳しくは以下の記事で。

次の記事

次も、精神保健福祉に影響を与えた人物を見ていきましょう。

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