うつ病や統合失調症などの精神疾患って、どのように診断しているのでしょう。
脳のCTやレントゲンを撮影してもわかるものではありませんし、うつ病なんかはテキトーに診断しているように感じますが。
精神科医の感覚で診断しているのでしょうか。
いいえ。実は、しっかりとした診断基準があるのです。
それがDSMです。
精神疾患の診断・統計マニュアルDSM
DSMとはアメリカの精神医学会が出版している「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders=精神疾患の診断・統計マニュアル」のことです。
統合失調症やうつ病など様々な精神疾患の診断基準が示されています。
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WHOではなくアメリカの精神医学会が出版してるよ。
現在は国際的に利用され、日本でも精神疾患の診断に用いられています。
DSMは1952年に第1版が出版され、その第5版がDSM-5です。
DSM-5では精神疾患が22のカテゴリーに分けて解説されており、例えば「神経発達症群 / 神経発達障害群」というカテゴリーであれば、その中に自閉スペクトラム症やADHDなどの診断基準が示されています。
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神経発達症というのは発達障害のことだよ。DSM-5からこのように呼ばれているよ。さらに「障害」を「症」と言い換えて併記してるよ。
精神科医が精神疾患の診断を行う時、このDSMか、もしくはICDを用いることが多いです(ICDは後述します)。
多元的診断システム
第4版のDSM-4では「多軸診断」でしたが、DSM-5では「多元的診断(ディメンション診断)」が用いられています。
多軸診断とは、5軸の観点から患者を多面的・網羅的に診断していこうとするシステムです。
多元的診断とは、各精神疾患の次元を設定して、その次元の程度をパーセント表示で示そうとするものです。
操作的診断基準
DSM-5では「操作的診断基準」が用いられています。
1980年に登場したDSM-3で操作的診断基準が導入されました。
操作的診断基準というのは、ある精神疾患のいくつかの診断基準のうち何項目が該当していればその病気であるなど、明確な判断基準のことです。
例えば、統合失調症であれば、①妄想、②幻覚、③まとまりのない発語、④ひどくまとまりのない、または緊張病性の行動、⑤陰性症状(情動表出の減少や意欲欠如など)の5つの症状のうち、何項目該当するかということから診断します。
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これによって医師の主観に偏ることなく診断できるようになったんだ。
多元的診断システム&操作的診断基準
DSM-5は、精神疾患を22のカテゴリーに分けて、操作的診断基準によってそれぞれの病名を診断する仕組みです。
しかし、実はこのような診断方法に真っ向から対立するのがディメンション診断です。
病名ありきのカテゴリー診断ではなく、いくつかの次元(ディメンション)を設定してその度合いによって疾患が診断されるディメンション診断を、当初はDSM-5で導入したかったのですが、結果的に断念しました。
例えば、統合失調症と双極性障害はカテゴリー的には別の疾患に分類されますが、あるディメンションで連続的なものとして捉えることができれば、そのディメンションの程度を図ることで統合失調症~双極性障害~統合失調性感情障害まで、スペクトラム(連続体)として捉えることができます。

しかし、そのディメンションを見出すことができず、DSM-5での導入は見送られ、一部にディメンション診断が導入されるに止まりました。
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つまり、例えば「脳内物質〇〇」の量が少ない時は精神遅滞、少し増えてくると統合失調症、さらに増えると双極性障害・・・というふうに、「脳内物質〇〇」の量という1つの軸が共通項として病名を貫いているわけ。そして、このディメンションを見出すことは容易ではないので、DSM-5に全面的に導入されることはなかったということ。
結局、DSM-5の特徴は、カテゴリー診断とディメンション診断に集約されます、と一般的には言われていますが、実はカテゴリー診断とディメンション診断は相反するもので、本来はDSM-5にディメンション診断を取り入れたかったのですが断念し、主としてカテゴリー診断、一部にディメンション診断を取り入れるに留まったというのが正確です。
22カテゴリー
具体的にどのようなカテゴリーに分かれているのでしょう。見てみましょう。
DSM-5では、精神疾患が以下の22のカテゴリーに分類されています。
2 統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群
3 双極性障害および関連障害群
4 抑うつ障害群
5 不安症群/不安障害群
6 強迫症および関連症群/強迫性障害および関連障害群
7 心的外傷およびストレス因関連障害群
8 解離症群/解離性障害群
9 身体症状症および関連症群
10 食行動障害および摂食障害群
11 排泄症群
12 睡眠-覚醒障害群
13 性機能不全群
14 性別違和
15 秩序破壊的・衝動制御・素行症群
16 物質関連障害および嗜癖性障害群
17 神経認知障害群
18 パーソナリティ障害群
19 パラフィリア障害群
20 他の精神疾患群
21 医薬品誘発性運動症群および他の医薬品有害作用
22 臨床的関与の対象となることのある他の状態
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〇〇障害という名称はネガティブなイメージがあるので、〇〇症という表記に統一したかったんだけど、現在のところ併記されてるね。
この22カテゴリーの中で国家試験に出題されやすいのは「1 神経発達症群/神経発達障害群」です。以下のように、知的障害、発達障害(自閉スペクトラム症、ADHD、学習障害)などが含まれています。
運動症群の中にはチック症やトゥレット障害が含まれます。
1 神経発達症群/神経発達障害群
・コミュニケーション障害群
・自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)
・注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害(ADHD)
・限局性学習症/限局性学習障害(SLD)
・運動症群/運動障害群(発達性協調運動障害、チックなど)
・他の神経発達症群/他の神経発達障害群
DSMとICD
国際疾病分類ICDは世界保健機関(WHO)が作成している国際的な診断基準です。
ICDは精神疾患だけでなく疾病全般の分類です。
1900年に日本で初めて導入されて以降、2018年には第11版であるICD-11が発表されています。
項目 | DSM | ICD |
---|---|---|
発表年 | 1952年 | 1900年 |
作成機関 | アメリカ精神医学会 | 世界保健機関(WHO) |
分類の対象 | 精神疾患のみ | 疾患全般 |
過去問
第19回 問題7
精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 作成したのは世界保健機関(WHO)である。
2 精神障害を内因性、心因性という名称で分類している。
3 身体疾患の診断基準も掲載している。
4 多軸診断システムを用いている。
5 操作的診断基準によって診断する。
1 作成したのは世界保健機関(WHO)である。
間違いです。
作成したのはアメリカ精神医学会です。
2 精神障害を内因性、心因性という名称で分類している。
間違いです。
DSM-3以前は外因性疾患、内因性疾患、心因性疾患の3分類でしたが、DSM-3以降、病因ではなくカテゴリー診断の考え方が用いられるようになっています。
3 身体疾患の診断基準も掲載している。
身体疾患はありません。精神疾患のみです。
4 多軸診断システムを用いている。
多軸診断ではなく多元的診断です。
5 操作的診断基準によって診断する。
これが正解です。
第20回 問題6
精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)において、「統合失調症」と診断するための5つの症状に含まれているものはどれか。正しいものを1つ選びなさい。
1 まとまりのない発語
2 観念奔逸
3 強迫行為
4 抑うつ気分
5 不眠または過眠
観念奔逸とは考えが次から次へとほとばしり出る事です。
どれも当てはまりそうですが、正解は選択肢1です。
DSM-5では統合失調症の症状として、①妄想、②幻覚、③まとまりのない発語、④ひどくまとまりのない、または緊張病性の行動、⑤陰性症状(情動表出の減少や意欲欠如など)の5つが挙げられています。
因みに、抑うつ気分は双極Ⅰ型障害、双極Ⅱ型障害の抑うつエピソード、うつ病/大うつ病性障害、持続性抑うつ障害(気分変性症)等のエピソードの1つです。
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次からは、具体的な疾患に入っていきます。
まずは、認知症から。
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