認知行動療法(Cognitive behavioral therapy)ができるまでの歴史的な流れを学びましょう。
第一世代の行動療法、第二世代の認知療法や論理療法、そして第三世代のマインドフルネスまで、見ていきます。
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1950年代~第一世代「行動療法」
アイゼンク(H.J.Eysenck)が、精神分析に反対する立場から「行動療法」を提唱しました。
この行動療法が、認知行動療法への第一世代です。
行動療法は、スキナーの学習理論が元になっており、オペラント条件づけ等を用いて問題行動を修正する心理療法です。
具体的には以下のような手法があります。
系統的脱感作法
ウォルピ(J.Wolpe)の系統的脱感作法は、不安階層表などを用いて不安の弱いモノから段階的に克服していく心理療法です。
不安障害の改善に効果的です。
モデリング療法
バンデューラ(A.Bandura)によるモデリング療法は、好ましいモデルの観察によって問題行動の改善を目指す方法です。
モデリングは、モデルとなる他者が適応的行動を起こして報酬を得る場面(代理強化)を観察することで、実際に経験しなくても新しい行動様式(適応的行動)を学習することです。
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モデリングは自己効力感(セルフエフィカシー)を高めるよ。バンデューラが提唱した概念だね。
トークンエコノミー法
トークンエコノミー法は、オペラント条件づけの原理を利用して、適応的行動(望ましい行動)を示した場合に、報酬(バックアップ強化子)と交換できるトークン(代用貨幣)を与える方法です。
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トークンエコノミー法は「正の強化」だね。
レスポンスコスト法
レスポンスコスト法は、トークンエコノミー法とは逆に、不適応行動を示した場合にトークンを没収します。
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レスポンスコスト法は「負の罰」だね。

暴露療法&暴露反応妨害法
暴露療法(エクスポージャー法)は、不安や恐怖を抱いているモノに対して、危険を伴うことなく暴露、直面させ、少しずつ慣れることにより恐怖や不安が低下していくことを目指します。
暴露反応妨害法は、暴露療法に加えて暴露されたときのオペラント反応を妨害することでそのオペラント反応を減らしていきます。
つまり、暴露療法は不安や恐怖に対するレスポンデント反応を減らす、暴露反応妨害法はレスポンデント反応に慣れオペラント反応も減らすことを目指します。
暴露療法は、不安を下げるような安全行動をとらなくてもよいパニック障害や社交不安障害、恐怖症やPTSDなどで用いられ、暴露反応妨害法は、反応妨害しないと治療ができない強迫性障害等で用いられます。
応用行動分析
応用行動分析は、人間の行動の因果関係を客観的に捉えようとする方法論で、主に発達障害児の療育の現場で用いられます。
スキナーの学習理論(オペラント条件づけ)を基礎理論として、正負の強化法、トークンエコノミー、タイムアウト、バイオフィードバック法、シェイピング等を用います。
三項随伴性と呼ばれる、先行条件A(どのような状況で)、行動B(どのような行動が起こり)、結果C(どうなったのか)という3つの枠組みで行動を捉えます。
1960年代~第二世代「論理情動行動療法&認知療法」
論理情動行動療法(論理療法)
エリス(A.Ellis)は、1955年に論理療法を提唱しました。
論理療法は、感情と行動は出来事によってではなく、その出来事をどのように解釈するかという認知の在り方によって変化するという考え方で、出来事(A)、信念(B)、結果(C)のうち、非合理的信念を論駁するという、ABC理論が特徴です。
エリスの論理療法は、1990年代より名称が変わり「論理情動行動療法」「理性感情行動療法」「REBT(Rational emotive behavior therapy)」と呼ばれています。
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論駁(ろんばく)とは、相手の説に反対して攻撃することだよ。
認知療法
ベック(A.T.Beck)が、認知療法を提唱しました。
認知療法は、非合理的信念を変容させる方法です。
つまり、人が成長するにつれて形成した歪んだ思考や考えが自然に浮かぶ「自動思考」を、認知を修正することで改善していく心理療法です。
このように、認知療法では否定的自動思考と呼ばれる認知の歪みを是正していきます。
1990年代~認知行動療法
認知療法と行動療法の両特性を併せ持つ認知行動療法は、うつ病やPTSD、強迫性障害など様々な精神疾患の治療に用いられます。
認知行動療法の技法を見ていきましょう。
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これまでは比較的軽症のうつ病治療に有効だとされてきた認知行動療法だけど、重度のうつ病にも効果があると、2017年の京都大学の研究で発表されているよ。
機能分析
機能分析は、問題行動に対して三項随伴性を分析し、その問題行動が維持されているメカニズムを検討します。
A(Antecedents) :先行条件
B(Behavior) :行動
C(Consequence):結果
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問題行動はなぜ起こるのか、なぜ起き続けるのかを分析するよ。
行動実験
行動実験は、クラーク(D.M.Clark)らのモデルに基づいた認知行動療法で、実際の社会的場面で行動を起こすことで、本当に恐れていることが起こるのかを検証します。
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こうした取り組みを通じて、恐れていることが実は起こりにくいことに気づき、バランスのとれた捉え方ができるようにするよ。
自己教示法
自己教示法は、1971年にマケインバウム(D.H.Meichenbaum)によって開発された技法で、自らの言葉で自分自身に教示を与えることにより、それが刺激となって自分の行動を変容させる方法です。
具体的な行動をイメージし、自分で自分にしっかりと言い聞かせ、その上で、実際に改善が見られた場合、報酬や賞賛で行動を強化することによって自己変容の速度が速まっていきます。
問題解決療法
問題解決療法は、日常生活の中で体験するさまざまな問題に対して、以下の5ステップを通じてその解決法を効果的に生成するための方法を習得していきます。
問題の明確化と目標設定:現実的で対処可能な問題を同定し、達成可能な目標を設定
問題解決策の算出:ブレイン・ストーミング等により可能な限り多数の解決策を模索
問題解決策の選択と決定:有効性と実行可能性の高い解決策を設定
問題解決策の実行と評価:有効性の高い解決策を実行し、結果を適切に評価
ソクラテス的問答
ソクラテス的問答は、開かれた質問と閉ざされた質問の中間に位置しているものです。
開かれた質問:「今日は、どんなことがあった?」
ソクラテス式問答:「今日、どんな良いことがあった?」
このソクラテス式問答を使って支援者が方向づけ、その方向性に沿ってクライエントが自由に答えるという質問技法です。
これによってクライエント自らが自身の認知や感情などに気づいたり、見落としていた視点に気づくことができるようになります。
クライエントが自分の思考を論理的に分析するように促すものであり、クライエントの探究心や治療への意欲を高めるために、質問によってクライエントを刺激し、自分の思考についてもっとよく知りたいと思わせることが重要です。
セルフモニタリング
セルフモニタリングは、自身の行動、思考、感情を自分で観察したり、記録したりすることです。
社会生活技能訓練SST
社会生活技能訓練(SST:Social Skills Training)は、認知行動療法の1技法で、対人関係などを中心に社会で生活していくためのスキルを向上させる訓練を行います。
アサーショントレーニング
アサーショントレーニングとは、相手の意見を尊重しながら自分の意見を主張できるようになるトレーニングです。コミュニケーション能力が向上するため、プライベートや職場での人間関係が円滑になります。
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アサーション(assertion)には、主張とか断言という意味だね。
感情ネットワークモデル
「ネットワークモデル」とは、人間の膨大な情報や記憶がネットワークになっており、個々の情報である「ノード」同士をリンクが結び付けているモデルです。
このネットワークモデルの中に「感情」をノードとして組み込んだ「感情ネットワークモデル」を提示したのがバウアー(G.H.Bower)です。
図にあるように、「怒り」「憤り」「憎しみ」といった似たような感情がリンクしており、例えば「怒り」が起こると、リンクしている「憤り」「憎しみ」も想起されやすいというモデルです。

2000年代~第三世代「マインドフルネス」

第三世代の(認知)行動療法の代表格は「マインドフルネス」です。
マインドフルネスは、GoogleやYahoo!などの有名企業が研修に用いており、その有効性は実証されていますが、実際に体験したことがあればその有用性がしっかりと実感できます。
マインドフルネスは、「今、この瞬間、ここに在る自分を意識すること」です。
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心理学って胡散臭いと思っている人も、マインドフルネスを体感すると感動するよ。
これを知っていると、人生が変わる!
人間は、日々生きる中で、常に未来のことを考えて生きています。
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ほとんどの場合、数秒先のことを常に考えてるね。
朝起きて5分後に朝食を食べて、10分後に家を出て・・・
一日中、常にちょっと先のことを考えてるよね。
それを止めて、今、この瞬間を意識して、今ここに在る自分を感じて生きる、これがマインドフルネスの神髄です。
マインドフルネス瞑想と呼ばれるように、瞑想の一種として日本の禅やインドのヨガなどもマインドフルネスに通じるものがあります。
マインドフルネスのコツは、腹式呼吸(丹田呼吸)を意識することです。
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未来のことなんてどうにもならないから考えなくていいの。
今、この瞬間を生きている喜びを感じるんだ。
僕たちは「今」を生きているんだから。
アクセプタンス&コミットメントセラピー (ACT)
マインドフルネスの重要な概念である「アクセプタンス」とは「体験を変えたり回避しようとせず十分に体験すること」です。
ACTは、自分の中の喜怒哀楽といった感情に気づきそれを受け入れ(アクセプタンス)、自分にとって真に価値のある選択を決定していくという方法で、スティーブンヘインズ(S.Haynes)らにより開発されました。
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ACT(Assertive Community Treatment)は「包括型地域生活支援プログラム」なので混同しないこと。こちらは重度精神障害者の地域移行のために様々な職種の専門家から構成されるチームが支援を提供するプログラムだったね。
ACTでは、ネガティブな感情は生きている以上当たり前にあって、それらを解決し対処することを受け入れる「アクセプタンス」が重要で、その姿勢こそが変化へのパワーを生む、と考えます。
また、苦悩や問題を抱えたままでも「高次の価値」「自分が人生で本当に実現したいこと」を発見し行動していく「コミットメント」の姿勢を持つことで幸福になれると考えます。
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コミットメントは「責任を持つ」「約束をする」という意味。
価値に基づいた行動を積み重ねていくことを重視するの。
弁証法的行動療法
マインドフルネスに基づく認知行動療法には、「弁証法的行動療法」という技法があります。
主に境界性パーソナリティ障害の治療法としてリネハン(M.M.Linehan)が提唱しました。
境界性パーソナリティー障害は、気分の波が激しく感情が極めて不安定で、善悪などを両極端に判定したり、強いイライラ感が抑えきれない症状があります。
このような症状は、「神経症」と「統合失調症」の境界にある症状ということで「境界性」パーソナリティ障害と呼ばれています。
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例えば、「強いイライラ感」は神経症的症状、「現実が冷静に認識できない」という症状は統合失調症的症状だね。
「弁証法的」とは、相反する2つ以上のものを統合し、より良い状態にたどり着こうとすることです。
つまり、「弁証法的行動療法」とは、このような境界性パーソナリティー障害の二極化した思考を統合し発展させ、現実的でバランスのとれた行動が選択できるように支援していくアプローチです。
まとめ
心理学の三大潮流の1つ「行動主義心理学」の流れの中で、「行動療法」が生まれてきます。
もう1つの三大潮流「精神分析学」に疑問を持ったアイゼンクが精神分析療法に対して「行動療法」を提唱します。
1950年代以降、第一世代の行動療法(by アイゼンク)に始まり、第二世代の論理療法(by エリス)と認知療法(by ベック)、それらが統合されて「認知行動療法」が生まれてきます。
現在では第三世代と呼ばれるマインドフルネスなども知られるようになり、認知行動療法は全世界で活躍中です。
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過去問
第25回 問題8
次のうち、認知行動療法に関連の深い人物として、正しいものを1つ選びなさい。
1 ベック(Beck, A.)2 ユング(Jung, C.)3 ソーンダイク(Thorndike, E.)4 ロジャーズ(Rogers, C.)5 カルフ(Kalff, D.)
1 ベック(Beck, A.)
これが正解です。ば第二世代の認知行動療法と呼ばれる認知療法を創始したのがベックです。
2 ユング(Jung, C.)
誤りです。ユングは精神分析療法です。フロイトの弟子ですね。
3 ソーンダイク(Thorndike, E.)
誤りです。ソーンダイクといえば行動主義心理学です。
4 ロジャース(Rogers, C.)
誤りです。ロジャースといえば来談者中心療法です。
5 カルフ(kalfi, D.)
誤りです。
第23回 問題14
認知行動療法に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。1 セラピストは、クライエントが独力で問題解決できるように、クライエントとの共同作業はしない。2 他者の行動観察を通して行動の変容をもたらすモデリングが含まれる。3 クライエントは、セッション場面以外で練習課題を行うことはない。4 リラクセーション法は併用しない。5 少しでも不快な刺激に曝すことは避け、トラウマの再発を防ぐ。
選択肢2が正解です。
第18回 問題8
次のうち、社会生活技能訓練(SST)で用いられる技法として、正しいものを1つ選びなさい。
1 モデリング
2 系統的脱感作法
3 催眠
4 絶対臥褥
5 共感的理解
1 モデリング
これが正解です。SSTは認知行動療法の技法で、モデルとなる人を真似(モデリング)して「強化」します。
2 系統的脱感作法
間違いです。これは行動療法の一種で、不安階層表などを用いて不安を解消していく方法です。
3 催眠
間違いです。催眠療法とは違います。
4 絶対臥褥
これは森田療法のキーワードです。
5 共感的理解
これは来談者中心療法のキーワードです。
第27回 問題6
次の記述のうち、社会生活技能訓練(SST)の説明として、正しいものを1つ選びなさい。
1 精神分析の考え方を応用したプログラムの一つである。
2 絶対臥褥により活動意欲を高める。
3 自己認識を深める心理劇である。
4 認知行動療法の考えを取り入れている。
5 絵画や音楽を通じた表現的精神療法の一つである。
選択肢4が正解です。
第27回 問題39
A精神保健福祉士が勤務する地域活動支援センターでは、これまで新型コロナウイルス感染症の流行のため利用人数や利用時間を制限していたが、全面的に再開した。再開後これまでのメンバーに加えて、新たなメンバーも増えてきた。メンバー同士の交流が増えるにつれて、A精神保健福祉士に対して「他の人からの誘いを断りたいけど、うまく断れなくて困っている」「自分の意見や考えをうまく伝えられるようになりたい」といった相談が多くなった。そこでA精神保健福祉士は、相手の気持ちを大切にしながら自分の意見を主張できることを目指す集団プログラムの実施をメンバーに提案した。
次のうち、このプログラムとして、適切なものを 1つ選びなさい。
1 リワークプログラム
2 アサーショントレーニング
3 TEACCH
4 SMARPP
5 IMR
1 リワークプログラム
誤りです。リワークプログラムは、精神疾患によって休職している労働者の職場復帰をめざすプログラムです。
2 アサーショントレーニング
これが正解です。アサーショントレーニングでは自分の意見を主張できることを目指します。
3 TEACCH
TEACCH(Treatment and Education of Autistic and related Communication-handicapped CHildren)は、米ノースカロライナ州で1972年以来行われているASD(自閉症スペクトラム障害)の当事者とその家族を対象とした生涯支援プログラムです。
4 SMARPP
SMARPPは、薬物再使用防止プログラムです。
5 IMR
IMRは、精神科リハビリテーションのアプローチ手法の1つです。
第24回 問題38
- 次の記述のうち、精神科専門療法に関する説明として、適切なものを1つ選びなさい。
1 急性期の入院患者に対する作業療法は、生活管理技能の改善を主目的とする。
2 社会生活技能訓練(SST)の基本訓練モデルは、あらかじめ獲得すべき技能が設定されている。
3 アルコール専門外来で行う集団精神療法は、各回の自由参加を原則とする。
4 うつ病に対する認知行動療法は、捉え方の偏りを修正して問題解決を促す。
5 統合失調症に対する心理教育は、精神分析療法を用いて展開する。
1 急性期の入院患者に対する作業療法は、生活管理技能の改善を主目的とする。
誤りです。急性期では病的状態からの早期脱出等を目的として行われます。
2 社会生活技能訓練(SST)の基本訓練モデルは、あらかじめ獲得すべき技能が設定されている。
誤りです。SSTではあらかじめ獲得すべき技能が設定されておらず、本人の希望に沿って目標を設定し、そのために必要な技能を習得していきます。
3 アルコール専門外来で行う集団精神療法は、各回の自由参加を原則とする。
誤りです。アルコール専門外来で行う集団精神療法では、自由参加ではなく一定期間は継続的に参加することが望まれます。
4 うつ病に対する認知行動療法は、捉え方の偏りを修正して問題解決を促す。
正しいです。認知行動療法では捉え方の偏り(認知の偏り)を修正していきます。
5 統合失調症に対する心理教育は、精神分析療法を用いて展開する。
誤りです。心理教育では精神分析療法は用いません。
次の記事
次は、日本独自の心理療法である森田療法を中心に見ていきます。
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