新カリキュラムになり、生活保護制度は共通科目から社会福祉士専門科目に移りました。しかし精神保健福祉士専門科目にも生活保護制度や生活困窮者自立支援制度は出題されます。共通科目で出題されなくなった分、精神保健福祉士専門科目には出題されやすいと思われます。
生活保護制度の目的
目的は2つ、「健康で文化的な最低限度の生活の保障」と「自立の助長」です。

「自立の助長」が目的であることを忘れないで。
基本原理
生活保護制度は「原理」と「原則」があります。
原理と原則の違いは、原理には例外がありませんが、原則には例外があることです。
まずは原理から見ていきましょう。
・国家責任の原理
生活保護制度は憲法第25条の生存権の理念に基づいており、最後のセーフティーネットとして国が責任を持って実施します。
生活保護法に理念は規定されておらず憲法25条が理念となっているのです。
財源として国が3/4も負担するのは他の社会保障制度にはありません。
下の図は各社会保障制度の財源の負担割合を表していますが、一番左にある生活保護は国の負担割合(赤色部分)が最も大きいことがわかるでしょう。
最後のセーフティーネットとして国が責任を持って実施する意気込みが見えますね。


旧生活保護法ではなんと8/10も国が負担していたよ。
・無差別平等の原理
無差別平等の原理とは困窮に陥った理由は問わず、日本国民であれば誰でも「適用」するということです。
ただし国籍要件があり外国人は保護しないのですが、永住外国人には生活保護法を「準用」し、人道上保護しています。

国家試験の過去問(第29回 問題78)では、「生活保護法は、就労目的での在留資格で在留する外国人に適用されることはない」という選択肢を正解にして物議を醸したよ。本当にこれを正解にしていいの?ということで。
・最低生活保障の原理
「健康で文化的な最低限度の生活」を保障しますよということです。
・保護の補足性の原理
生活保護は、資産や能力を最大限活用し、扶養義務者の援助を求め、それでも最低限度の生活を維持できない場合に受給できるということ、それが「補足性の原理」です。
生活保護法第四条第一項には、このことが書かれています。さらに第二項には「他方他施策優先の原理」が規定されています。

つまり、生活保護を受ける前に、児童扶養手当とか、特別児童扶養手当とか、自立支援医療とか、障害年金とか、生活保護以外の制度や施策を活用してねということだね。
<生活保護法 第四条>
保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
2 民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
3 前二項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない。

生活保護行政を担う現役のケースワーカーさんと相談員さんに出演してもらったライブでは、二人ともこの「補足性の原理」を意識して対応していることをゆってた!
基本原則
原理と違って原則には例外があります。
例外を中心に覚えていきましょう。
・申請保護の原則
申請保護の原則では要保護者や扶養義務者又は同居の親族の申請に基づいて保護が開始されますが、例外として、急迫時には申請がなくても保護されます。
・基準及び程度の原則
生活扶助基準は5年毎の全国消費実態調査を参考に改定され、厚生労働大臣が定めます。
その改定内容に基づいて生活保護基準は毎年のように改定されます。
2013年(生活扶助、平均6.5%、最大10%引下げ)
2018年(生活扶助、平均1.8%、最大5%引下げ)
2023年(・・・
基準は最低限度の生活水準を満たしかつそれを越えないものとされています。
生活保護基準はどのように決められているのでしょう。
その方式は、標準生計費方式→マーケットバスケット方式→エンゲル方式→格差縮小方式→水準均衡方式と移り変わって来ました。
現在用いられている水準均衡方式では、生活保護基準は一般国民の生活水準との関連において相対的に捉えられ当該年度に想定される一般国民の消費動向等を踏まえ改定されます。
以下は2022年3月の福祉新聞記事です。水準均衡方式に加えてMIS手法を取り入れることが書かれています。

・必要即応の原則
必要即応の原則は、「保護では要保護者の年齢別、性別、健康状態等その個人または世帯の実際の必要の相違を考慮して有効かつ適切に行うものとする」とされており、つまり画一的な給付ではダメということです。
・世帯単位の原則
生活保護は世帯単位で支給されます。
ただし例外として、緊急の場合などは個人単位で支給される事もあります。
義務や禁止行為について
費用返還義務
急迫時に資力があるにもかかわらず保護を受けた時は受けた分の返還義務が発生します。
生活上の義務
勤労に励んだり支出の節約などが義務です。
届け出義務
収入支出や世帯異動に関して届け出の義務があります。
指示に従う義務
義務に従わなければ弁明の機会を与えられたあと、保護の停止や廃止もあり得ます。
不利益変更の禁止
正当な理由がなければ保護内容を変更されることはありません。
公課禁止
保護金品には課税されません。
差押禁止
保護金品は差し押さえされません(過去に税を滞納したことがあったとしても)。
譲渡禁止
保護を受ける権利を譲渡することはできません。
保護の実施機関
生活保護の行政は福祉事務所が担います。
福祉事務所を設置しなければならないのは、都道府県と市です。
町村は「福祉事務所を設置できる」とされていますので、福祉事務所がある場合もありますが基本的には町村部は都道府県の福祉事務所が担います。
ということで保護の実施機関は、都道府県知事や市長及び福祉事務所を管理する町村長ということになります。

福祉事務所は別記事で詳しく取り上げるのでご心配なく。
生活保護の担い手
戦前の救護施設では方面委員が、戦後すぐの旧生活保護法では民生委員が担っていましたが、現在では福祉事務所に配置されている社会福祉主事が担っています。

社会福祉主事は福祉事務所に配置される現業員(ケースワーカー)だね。
社会福祉主事は生活保護の「補助機関」とされています。
旧生活保護法では民生委員が補助機関で支給決定などをしていましたが、現在では民生委員は「協力機関」になりました。

民生委員は別記事で詳しく取り上げるのでご心配なく。
8種類の扶助
生活保護制度の歴史として、救護法→旧生活保護法→生活保護法の流れを「日本の戦前福祉の変遷」で見てきました。
戦前の救護法では4種類(生活扶助、医療扶助、助産扶助、生業扶助)で、旧生活保護法になり葬祭扶助が追加され5種類になり、現生活保護法が戦後に制定された時には、教育扶助と住宅扶助が加えられて7種類に。
そして2000年に介護保険法施行とともに介護扶助が加えられ、現在の8種類になっています。
扶助 | 1929 救護法 |
1946 旧生活保護法 |
1950 生活保護法 |
---|---|---|---|
生活扶助 | 〇 | 〇 | 〇 |
医療扶助 | 〇 | 〇 | 〇 |
助産扶助→出産扶助 | 〇 | 〇 | 〇 |
生業扶助 | 〇 | 〇 | 〇 |
葬祭扶助 | 葬祭費 | 〇 | 〇 |
住宅扶助 | 〇 | ||
教育扶助 | 〇 | ||
介護扶助 | 〇(2000年~) |
・生活扶助
生活扶助は日常生活に必要な費用の支給で、第一類と第二類があります。
第一類は個人の生活費で、第二類は光熱水費など世帯全体の生活費です。
さらに各種加算(母子加算、障害加算、介護保険料加算など)があります。
介護保険料加算は介護扶助でなく生活扶助で支給されます。
さらに生活扶助には入学準備金や出産する子供の服代など一時扶助というのがあります。
・住宅扶助
住宅扶助は、家賃や敷金礼金など住宅に関する扶助です。
・医療扶助
医療扶助は、医療を受けた時の現物給付による扶助です。
現物給付というのは、現金ではなくサービスを無料で受けられる(サービスそのものが給付される)ということです。
・教育扶助
教育扶助は、義務教育にかかる費用への扶助です。
高校就学費は義務教育を卒業していますので生業扶助になります。
・介護扶助
介護扶助は、介護保険サービスを利用する時の自己負担に対する現物給付の扶助です。
・出産扶助
出産扶助は、病院や助産施設で出産したときにかかる費用に対する扶助です。
・生業扶助
生業扶助は、就職するために必要な費用や高等学校以上の就学費などです。
・葬祭扶助
葬祭扶助は、葬祭した人に支払われます。葬祭扶助には、遺体の検案のほか、死体の運搬、火葬又は埋葬、納骨その他葬祭のための必要な費用が含まれます。
申請→支給決定→不服申立→取消訴訟
例えば住所不定のホームレスで公園に住んでいる人は、その公園のある自治体に申請します。
本籍地があるところではありません。
申請があると資産調査(ミーンズテスト)がなされ、扶養義務者や勤務先への確認もなされることがあります。
申請があった日から14日以内に通知されますが、資産調査に時間が掛かる場合は最長で30日まで延長されます。
生活保護が認められなかったり等の行政処分に不満がある時は3カ月以内に不服申立をしなければならず、都道府県知事に審査請求をします。
都道府県知事の裁決に不服があるときは、厚生労働大臣に再審査請求をすることができ、それでも納得できなければ訴訟ができます。
審査請求を飛び越えて訴訟はできません。
普通は不服申立(審査請求)か裁判(訴訟)か選べるのですが、生活保護は「不服申立前置主義」をとっていますから、まず審査請求による不服申立をしないと取消訴訟ができません。
この流れは以下の「朝日訴訟」を参考にすると覚えやすいです。
朝日訴訟
朝日訴訟というのは、朝日茂さんが起こした生活保護に関する行政訴訟のことです。
1957年当時、結核患者だった朝日茂さんは国立の岡山療養所に入所し、月々600円の生活保護で生活していました。しかし生活が苦しく、この金額では憲法25条の生存権が保証されないとして訴訟を起こしました。
ただし、不服申立前置主義をとる生活保護制度では審査請求を経ないと訴訟できませんので、朝日さんは以下の流れで訴訟を行います。
②厚生大臣に不服申立→却下
③行政不服審査法による訴訟
他の社会保障制度との関係
生活保護受給者は国民年金保険料が法定免除されています。
40~65歳の人は介護保険の第二号被保険者ですが、生活保護受給者は医療保険加入者が極めて少ないため介護保険2号被保険者にほとんど該当しません(介護保険は健康保険への加入が必須でしたね)。
そのような被保護者が介護が必要になった場合は介護扶助から全額賄われます。
第2号被保険者であれば介護保険から9割が支払われ、自己負担1割は介護扶助から支払われるわけです。
保護施設
生活保護法は居宅保護が原則ですが、補完的に保護施設が維持されています。
この保護施設には以下の5種類あって、運営できるのは都道府県、市町村、独立行政法人、社会福祉法人、日本赤十字社に限られます。
・救護施設
救護施設は、身体上精神上の著しい障害のある要保護者の生活扶助施設です。
・更生施設
更生施設は、身体上・精神上の理由による養護、補導を必要とする要保護者を入所させる生活扶助施設です。
・医療保護施設
医療保護施設は、医療扶助の給付を行う施設です。
・授産施設
授産施設は、就業能力の限られた要保護者に就労又は技能習得の機会を与える施設です(生業扶助の現物給付)。
・宿所提供施設
宿所提供施設は、住居のない要保護者に住宅扶助を行う施設です。
救護施設以外の4つは障害者施策など他の法律の整備や拡充によって減少してきていますが、救護施設は他法の入所待機者や他法の施設で受け入れ困難とされる人が利用し5種のなかで最も多いのですが、それでも全国に200もありません。
市町村単位どころか都道府県に平均4~5施設くらいでしょうか。
生活保護制度の現状
受給者数(世帯別、扶助別)
被保護者数は、全国で200万人、160万世帯を超えています。
生活保護受給世帯は「高齢者世帯」「障害・疾病世帯」「母子世帯」「その他世帯」と4つの世帯に分けられていますが、最も多いのは「高齢者世帯」で、半分以上を占めています。

さらにそのほとんどが単身世帯です。
高齢化が急速に進む日本では当然で、高齢者であれば働かない事に合理性もありますので、生活保護を受ける数も多いのは納得できますね。
さらに「その他世帯」の中に含まれる働き盛りの30~50代の世帯も増えていることも問題視されています。
上のグラフにあるように、昭和のころは生活保護を受けている世帯は障害者や傷病者世帯が最も多かったのですが、平成に入るころに高齢者世帯が最も多くなり、近年急激に増加しています。
今後も高齢化でどんどんその割合は増えていきます。
扶助別には生活扶助が最多であり、生活扶助、住宅扶助、医療扶助の三大扶助が他の扶助よりも圧倒的に多くなっています。2000年から始まった介護保険制度により介護扶助が導入されましたが、伸び続けてはいるものの三大扶助よりは少ないです。

保護費
保護費で最も多額を占めるのは医療扶助です。
被保護者は医療保険未加入者が大半なのでそうなってしまいます。
人員ベースでは生活扶助が最も多く、金額ベースでは医療扶助が最も多額であることを覚えておいてください。

どれだけ病院にかかっても医療費が無料だから気軽に何度も通院してしまうよね。薬だけもらって転売する人もいるってニュースでやってた。
保護開始理由
保護開始理由としては、「預貯金等の減少・喪失」が最多となっています。

保護廃止理由
生活保護から抜け出す理由としては、もっとも期待したいのは「働き始めて収入が得られるようになったから」というものですが、そうはいきません。
下のグラフを見ると、死亡によって生活保護が廃止になる人が最も多いようです。

過去問
第27回 問題45
生活保護制度に関する次の記述のうち、正しいものを2つ選びなさい。
1 保護の基準額は、全国一律である。
2 精神障害者が申請する場合、資力調査は免除される。
3 原則として、住宅扶助は現物給付である。
4 原則として、世帯単位で保護の要否及び程度が定められる。
5 精神障害者保健福祉手帳の1級及び2級所持者には、生活扶助の障害者加算がある。
1 保護の基準額は、全国一律である。
誤りです。必要即応の原則により「保護では要保護者の年齢別、性別、健康状態等その個人または世帯の実際の必要の相違を考慮して有効かつ適切に行うものとする」とされています。
2 精神障害者が申請する場合、資力調査は免除される。
誤りです。資力調査が実施されます。
3 原則として、住宅扶助は現物給付である。
誤りです。住宅扶助は現金給付です。
4 原則として、世帯単位で保護の要否及び程度が定められる。
正しいです。世帯単位の原則があります。
5 精神障害者保健福祉手帳の1級及び2級所持者には、生活扶助の障害者加算がある。
正しいです。
第20回 問題65(共通科目)
現行の生活保護法に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 保護は、個人を単位として行われるが、特別の場合には世帯を単位として行うこともできる。
2 補足性の原理により、素行不良な者は保護の受給資格を欠くとされている。
3 保護の基準は、国会の審議を経て、法律で定めることとなっている。
4 「要保護者」とは、現に保護を受けている者と定義される。
5 最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長することを目的としている。
1 保護は、個人を単位として行われるが、特別の場合には世帯を単位として行うこともできる。
生活保護は世帯単位が原則ですので間違いです。
2 補足性の原理により、素行不良な者は保護の受給資格を欠くとされている。
補足性の原理とは、扶養義務者がいる場合はそちらを優先するということでしたので間違いです。素行不良な者は保護の受給資格を欠くとされていたのは「旧生活保護法」で、現在では素行不良な者でも、無差別平等に受給できます。
3 保護の基準は、国会の審議を経て、法律で定めることとなっている。
保護の基準はわざわざ法律で定めるわけではありません。厚生労働大臣が定めますので間違いです。
4 「要保護者」とは、現に保護を受けている者と定義される。
現に保護を受けている者ではなく、保護を受けることが必要な者です。
5 最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長することを目的としている。
これが正解ですね。
第25回 問題64(共通科目)
現行の生活保護法に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 生活保護は、日本国憲法第21条が規定する理念に基づいて行われる。
2 生活保護が目的とする自立とは、経済的自立のみを指している。
3 能力に応じて勤労に励み、支出の節約を図り、生活の維持及び向上に努めなければ、保護を申請できない。
4 補足性の原理によって、扶養義務者のいる者は保護の受給資格を欠くとされている。
5 保護の基準は、保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、これを超えないものでなければならない。
1 生活保護は、日本国憲法第21条が規定する理念に基づいて行われる。
誤りです。日本国憲法第25条の理念に基づいています。
2 生活保護が目的とする自立とは、経済的自立のみを指している。
誤りです。経済的自立のみが目的ではありません。
3 能力に応じて勤労に励み、支出の節約を図り、生活の維持及び向上に努めなければ、保護を申請できない。
誤りです。そんなことはありません。
4 補足性の原理によって、扶養義務者のいる者は保護の受給資格を欠くとされている。
誤りです。扶養義務者による扶養を優先しますが、扶養義務者の存在によって受給資格がなくなるわけではありません。
5 保護の基準は、保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、これを超えないものでなければならない。
これが正解です。
第25回 問題64
- 生活保護制度に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 医療扶助は、原則として金銭給付される。
2 障害厚生年金3級を受給している場合、障害者加算が認められる。
3 障害者加算の金額は、在宅者と入院者で同額である。
4 精神障害者保健福祉手帳3級に相当する場合、障害者加算が認められる。
5 入院患者日用品費は、原則として金銭給付される。
1 医療扶助は、原則として金銭給付される。
誤りです。医療扶助が現物給付が原則です。
2 障害厚生年金3級を受給している場合、障害者加算が認められる。
誤りです。障害者加算の対象は「身体障害者手帳1~3級」「精神障害者保健福祉手帳1~2級」「障害年金1~2級」ですので、障害厚生年金3級は対象ではありません。
3 障害者加算の金額は、在宅者と入院者で同額である。
誤りです。在宅者と入院者で金額が異なります。
4 精神障害者保健福祉手帳3級に相当する場合、障害者加算が認められる。
誤りです。精神障害者保健福祉手帳3級は対象ではありません。
5 入院患者日用品費は、原則として金銭給付される。
正しいです。生活扶助の入院患者日用品費は、原則として金銭給付されます。
次の記事
次は、生活困窮者自立支援制度です。
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