更生保護制度
更生保護制度は更生保護法に基づいて、刑務所を出所した人や執行猶予付きの判決を受けた人、少年院から仮退院を許された少年などが、社会に出た時に同じ過ちを繰り返すことのないよう更生するための制度です。
犯した罪を償い社会の一員として立ち直るために、本人、行政機関、保護司や更生保護施設といったボランティアの連携によって成り立つ制度です。
人は過ちを犯す生き物ですから、必ず立ち直るチャンスがあるべきだと思います。
このような考えに賛同するボランティアの方々が、保護司になったり更生保護施設を運営したりして、罪を犯してしまった人に再起のチャンスを与えようとしているのです。

このようにボランティアによって支えられているのが更生保護制度だよ。
保護観察
更生保護制度の中心である保護観察は、指導監督(法的支援)と補導援護(福祉的支援)により、国の機関である保護観察所が実施します(法務省 地方支分部局)。
犯罪者や非行少年に対し、一定のルール(一般遵守事項、特別遵守事項)を課した上で、通常の社会生活を営ませながら実施されます。
刑務所等の矯正施設内ではなく、施設外(社会の中)で処遇を行うことが基本になりますが、住む場所がないような人には更生保護施設がありますので、施設内処遇もありえます。
保護観察を受けるのは以下の4種類に該当する人です。
・2号観察:地方更生保護委員会の決定により少年院から仮退院を許された少年
・3号観察:委員会の決定により仮釈放を許された者
・4号観察:裁判所の決定により刑の執行が猶予され保護観察に付された者
第1号と第2号は少年ですが、保護観察処分少年には専門的処遇プログラムは義務付けられません。
ただし、保護観察処分少年に対しても刑務所出所者等総合的就労支援対策は実施されます。
第3号は仮釈放者ですが、刑法では成人の場合、懲役または禁錮に処せられた者に改悛の情があるときには有期刑についてはその1/3、無期刑については10年を経過した後、仮釈放が可能となります。少年の場合は無期刑なら7年で仮釈放可能です。

以前は5号観察があって、「婦人補導院から仮退院を許されている者」が対象だったんだけど、2022年に売春防止法が改正(困難女性支援法が制定)されて婦人補導院が廃止されたんだ。しかも近年は5号観察の対象者がいなかったので、5号観察自体も廃止されたんだ。
保護観察を受ける者が保護観察中に守らなければならない一般遵守事項は以下のような内容です。
<一般遵守事項>
- 再犯や非行をしないよう、健全な生活態度を保持する
- 保護観察官や保護司による指導監督を誠実に受ける
- 住居を定め、その地を管轄する保護観察所の長に届け出る
- 届け出た住居に居住する
- 転居や7日以上の旅行をする場合は、あらかじめ保護観察所の長の許可を受ける

旅行に行くのにも許可がいるんだね。
さらに個別に内容が設定された特別遵守事項もあります。
特別遵守事項は例えば、遅刻せず学校に通うとか就職活動をするとか、性犯罪を犯した者であれば性犯罪者処遇プログラムを受けるとか被害者と接触しないとか。
保護観察の担い手
保護観察官
保護観察官は国家公務員試験に合格した心理学や教育学の専門家です。
地方更生保護委員会の事務局と保護観察所に配置され、保護観察所では保護観察、調査、生活環境の調整などに従事します。
保護司
保護司は、保護観察官で十分でないところを補い、無給のボランティアですが、非常勤の国家公務員です。
保護観察所長が保護司選考会の意見を聞いたうえで候補者を法務大臣に推薦し法務大臣が委嘱します。
保護司法には全国で定数が52,500人を超えないと定められています。
保護司の活動拠点は下に出てくる「更生保護サポートセンター」です。
覚えておきましょう。
更生緊急保護
犯罪者がさらに罪を犯す危険を防止するため、その親族等から保護を受けられない場合などに、国の責任で更生緊急保護を行います。
対象は刑の執行を終わった者や執行の免除を受けた者、執行猶予者で保護観察に付されなかった者などで、本人の申し出によって保護観察所長が必要と認めた時に行われます。
原則6カ月を超えない範囲(延長する場合はさらに6カ月を超えない範囲)で。

保護観察対象者は更生緊急保護の対象にはならないよ。
保護観察には「応急の救護・援護」という保護する仕組みがあるからね。
どちらも同じような内容なんだけど・・・。
保護観察と更生緊急保護の違い
更生緊急保護は単なる保護観察の緊急バージョンではありません。
それぞれどのような趣旨でどのような場合に適用されるのか、しっかり理解してください。
保護観察の対象は以下の5種類です。
・2号観察:地方更生保護委員会の決定により少年院から仮退院を許された少年
・3号観察:委員会の決定により仮釈放を許された者
・4号観察:裁判所の決定により刑の執行が猶予され保護観察に付された者
一方で更生緊急保護は、
・刑の執行の免除を受けた者
・刑の執行が猶予され保護観察に付されなかった者
等が対象です。
つまり、更生緊急保護は、刑務所でしっかり罪を償ったりして、もう社会に出てもいいよーと許された人が、そのまま社会に出ると家族の援助が受けられなかったりするので、緊急的に保護する仕組みです。
だから、本人はすでに罪人ではないので司法が強制的に行えるものではなく、本人の申し出が前提なのです。
そして、期間も6カ月という期限付きで(延長する場合はさらに6カ月を超えない範囲で)行われるのです。
なので、仮釈放中の者は更生緊急保護を受けることができないというのも当然です。
なぜなら、仮釈放中というのは、刑期を全うしていないからです。以下の図にあるように仮退院や仮釈放の場合は必ず保護観察がつきます。保護観察がつくと更生緊急保護の対象にはなりません。
執行猶予などの場合は保護観察と更生緊急保護の両方の矢印がありますが、保護観察付き執行猶予の場合は更生緊急保護にはなりません。

更生保護関連機関
更生保護サポートセンター
更生保護サポートセンターは、個々の保護司の処遇活動を支援するため、保護司会として組織的に情報発信や活動を行うための活動拠点であり、保護司が常駐しています。

保護観察を受ける人をサポートするのではないことに注意!
更生保護施設
更生保護施設は、刑務所仮釈放者、満期出所者、執行猶予者、起訴猶予者、少年院仮退院などの人のうち親族や公的機関から支援を受けられない人に宿所や食事を提供する民間の施設です。
更生保護施設だけでは限界があり、そのためにあらかじめ保護観察所に登録された自立準備ホームがあります。
自立準備ホーム
更生保護施設だけでは限界があるので、自立準備ホームがあります。
あらかじめ保護観察所に登録された社会福祉法人やNPO法人などが宿泊場所の供与や自律のための生活指導を行います。
更生保護施設に入るか自立準備ホームに入るかは選ぶことはできません。

自立援助ホームと混同しないように。
こちらは児童自立生活援助事業で15~20歳まででやむを得ない理由で働かざるを得なくなった児童に住まいを提供する事業だったね。
地方更生保護委員会
地方更生保護委員会は、仮釈放や仮退院の許可や取消の権限をもっています。
地方更生保護委員会の決定に不服がある場合は中央更生保護審査会に審査請求します。
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保護観察官は保護観察所だけでなく地方更生保護委員会にも配置され、このような仕事をするんだよ。
自立更生促進センター
自立更生促進センターは、適当な引受人がなく更生保護施設では十分でない方に、一時的な宿泊場所を提供し、保護観察官が直接指導監督、就労支援を行う国の施設です。保護観察所に併設(2020年現在で福島市と北九州市の2か所)されています。
更生保護女性会
更生保護女性会は、地域の犯罪予防活動を行っています。
BBS会(Big Brothers and Sisters Movement)
BBS会は、成年たちのボランティア団体です。
1947年に戦後の混乱の中で非行に走る戦災遺児孤児たちに対して京都の大学生が立ち上げたのが始まりで、保護観察中の少年に対するともだち活動などが実施されています。
ビッグブラザー&シスターズムーブメントという呼び方からなんとなく想像できますが、お兄さんお姉さんが非行少年などと関わり更生を促すものです。
非行少年たちにとっては兄貴分的な存在が立ち直るために重要です。
地域生活定着支援センター
地域生活定着支援センターは、都道府県に設置され、保護観察所や矯正施設、地域の福祉関係機関等と連携しながら、刑事上の手続又は保護処分による身体の拘束中から釈放後まで一貫した相談支援を実施します。
協力雇用主
協力雇用主は、保護観察又は更生緊急保護の対象者をその事情を理解した上で雇用し更生に協力します。
過去問
第23回 問題67
更生保護制度に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。1 矯正施設での施設内処遇が原則となる。2 仮釈放の決定を行うのは、地方裁判所である。3 保護観察の期間は、保護観察所が決定する。4 仮釈放者は、自立更生促進センターに入所することができる。5 地域生活定着支援センターは、保護観察所に併設される。
1 矯正施設での施設内処遇が原則となる。
誤りです。更生保護制度の保護観察などの社会内処遇が原則です。
2 仮釈放の決定を行うのは、地方裁判所である。
誤りです。地方裁判所ではなく地方更生保護委員会です。
3 保護観察の期間は、保護観察所が決定する。
誤りです。保護観察所ではなく家庭裁判所が決定します。
4 仮釈放者は、自立更生促進センターに入所することができる。
正しいです。仮釈放者は保護観察対象となり自立更生促進センターへの入所が可能です。
5 地域生活定着支援センターは、保護観察所に併設される。
誤りです。地域生活定着支援センターは都道府県に設置されます。保護観察所に併設されるのは自立更生促進センターです。
第24回 問題66
- 次のうち、仮釈放の許否決定の権限を有する機関として、正しいものを1つ選びなさい。
1 地方裁判所
2 地方検察庁
3 保護観察所
4 地方更生保護委員会
5 刑務所
選択肢4が正解です。
第25回 問題65
- 更生緊急保護に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 矯正施設の長からの申出により実施される。
2 保護の期間は、最長で3年である。- 3 仮釈放中の者も対象に含まれる。
- 4 公共の衛生福祉に関する機関等による保護が優先される。
- 5 社会福祉法に規定されている社会福祉事業に含まれる。
1 矯正施設の長からの申出により実施される。
誤りです。更生緊急保護は本人の申出で、保護観察所長が認めた場合に実施されます。
2 保護の期間は、最長で3年である。
誤りです。更生緊急保護は原則6か月(最長1年)です。
3 仮釈放中の者も対象に含まれる。
誤りです。仮釈放中は保護観察に付されますので、更生緊急保護の対象にはなりません。
4 公共の衛生福祉に関する機関等による保護が優先される。
正しいです。親族からの援助や公共の福祉関係機関等からの保護が優先されます。
5 社会福祉法に規定されている社会福祉事業に含まれる。
誤りです。更生保護法には「更生緊急保護は、保護観察所の長が、自ら行い、又は更生保護事業法の規定により更生保護事業を営む者その他の適当な者に委託して行うものとする。」と規定されています。
第26回 問題66
- 地域生活定着支援センターに関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 利用には、精神障害者保健福祉手帳の所持が要件となる。
2 職員の配置においては、精神保健福祉士が必置となっている。
3 支援は、矯正施設出所後に開始される。- 4 設置は、各市町村に1か所となっている。
5 整備は、厚生労働省が所管する事業により進められている。
1 利用には、精神障害者保健福祉手帳の所持が要件となる。
このような要件はありません。
2 職員の配置においては、精神保健福祉士が必置となっている。
このような要件はありません。
3 支援は、矯正施設出所後に開始される。
誤りです。出所前から出所後に必要になる支援を行っていきます。
4 設置は、各市町村に1か所となっている。
誤りです。各都道府県に1か所が原則です。
5 整備は、厚生労働省が所管する事業により進められている。
正しいです。2009年度からの厚生労働省の地域生活定着支援事業によって地域生活定着支援センターが各都道府県に整備されています。
第26回 問題67
- 保護観察所に関する次の記述のうち、正しいものを2つ選びなさい。
1 未成年者の保護観察は対象外である。
2 犯罪予防のための普及啓発を行う。
3 精神保健観察を行う。
4 刑事施設の仮釈放を決定する。
5 更生保護施設を併設する。
1 未成年者の保護観察は対象外である。
誤りです。1号観察と2号観察は未成年者も対象です。
2 犯罪予防のための普及啓発を行う。
正しいです。
3 精神保健観察を行う。
正しいです。
4 刑事施設の仮釈放を決定する。
誤りです。仮釈放を決定するのは地方更生保護委員会です。
5 更生保護施設を併設する。
誤りです。保護観察所に併設されているのは、更生保護施設ではなく自立更生促進センターです。
次の記事
次は、非行少年について。
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